事故の捜査をした検察幹部は、ジャーナリストの村山治の取材にこう述べている*6。「吉田さんはまさに、事故現場のヒーローだったが、(津波対策が議論された際に積極的に動かず)そのまま福島原発の所長になった。そして、そんなこと(巨大津波による浸水)は起こらない、と思っていたことが、そのまま次々に起きた。(津波対策をとらなかったことが)心に響かないはずがない。(対策をとらなかった当事者として)忸怩たる思いがあったから、よけいに頑張ったのではないか、という気がする」
*6 村山治 「福島原発事故で検察は最強の特捜ラインで腹をくくって事実固め」法と経済のジャーナル 2019年9月25日
https://webronza.asahi.com/judiciary/articles/2719092400001.html
事故原因も描く『チェルノブイリ』の凄みに及ばず
原子力災害を扱った傑作に、1986年のチェルノブイリ原発事故を取り上げたアメリカHBOの『チェルノブイリ』(2018年、全5話)がある。こちらは事故の収束のため命をなげうって作業にあたった人たちの姿だけでなく、事故の原因や責任追及をあいまいにしようとする政府と、それに立ち向かう研究者の姿を通して、事故の全体像を解き明かそうとしている。放射線の恐怖だけでなく、事故原因を闇に埋もれさせまいと行動する研究者の迫力、凄みも伝わってくる構成で、エミー賞を作品賞など10部門で受賞している。
対照的に『THE DAYS』は、Netflixの潤沢な資金で事故の再現精度を上げ、放射線の恐怖や原子力災害の途方も無い被害の大きさを伝えることに成功したと思われるものの、事故を起こした原因を立体的に浮かび上がらせる力は乏しい*7。
脚本は、門田隆将『死の淵を見た男』(2012)、東電自身がまとめた事故調査報告書(2012)、吉田が政府の事故調査委員会の聴取に答えた調書(2011)を柱にしているという。2017年以降に裁判で明らかになった吉田の「もう一つの顔」に触れないまま、『チェルノブイリ』のように事故の真相に迫ることは難しいだろう。制作側のリサーチ不足によるものか、それとも東電や政府に都合の悪い事故原因を深掘りしたくなかったのか、どちらなのだろうか。(敬称略)
*7 非常用復水器(IC:アイソレーションコンデンサー)の作動状態の誤認について『THE DAYS』は取り上げている。しかしそれは「天災か人災か」を問う問題のうちごく一部にすぎず、事故をめぐる多くの裁判では検討課題に挙がっていない。