ふさわしい計画が「ららぽ」の名誉を守る
こうした科学的・歴史的な知見によって、風土(その場所らしさ)が明らかにされる。そこに重なる形で、地域の住民の感情や意味づけが重要になってくる。
神宮外苑でいえば、その近隣に住んでいる人たちや、そこを訪れる人たちが、神宮外苑にどのような感情を抱き、どのような意味づけをしているか、が考慮されなければならないのである。
そういったことを無視するような環境整備は拒否されるべきというのが、ベルクが示した環境倫理なのである。
先の規範はやや後ろ向きのものだったが、ベルクはより前向きな規範も提出している。それは、環境整備においては尺度を考慮し、適切な釣り合いを守り、節度の感覚を大事にすべきというものだ。
「尺度を勘違いしないために地図と国土とを、実験室と現地とを粘り強く関係付けること」が大切だとベルクは言う(ベルク1994:169)。
神宮外苑再開発における高層ビル群建設においては、この尺度の問題をより真剣に考えるべきであろう。
最後に、この再開発とは無関係の「ららぽーと」があたかも悪いものであるかのように言われるのは、「ららぽーと」関係者からすれば心外だろう。
流れ弾が当たってしまっている「ららぽーと」の名誉を守るためにも、神宮外苑という場所にふさわしい建物が計画されるべきである。それは地域の歴史や自然の特徴を損なうものであってはならない。
最も風土を守るやり方は、既存の樹木と建物を残すことだろう。
※本記事は、6月27日に開かれたオンラインワークショップ「人文知の視点から見た神宮外苑再開発問題」の中で報告した内容の要約です。
参考文献:
エドワード・レルフ(1999)『場所の現象学』ちくま学芸文庫
オギュスタン・ベルク(1994)『風土としての地球』筑摩書房
和辻哲郎(1979)『風土』岩波文庫
和辻哲郎(1991)『イタリア古寺巡礼』岩波文庫
桑子敏雄(2005)『風景のなかの環境哲学』東京大学出版会
亀山純生(2005)『環境倫理と風土』大月書店