なぜ神宮外苑という場所につくるのか

 しかし、高層ビルや「ららぽーとのような商業施設」のどこが悪いのかを考えると、高層ビルや商業施設自体に悪い点はあまりないように思われる。高層ビルやららぽーとに愛着をもっている人もたくさんいるだろう。

 ここでの不満の声の中心は、「なぜそれを神宮外苑という場所につくるのか」という点にある。これは再開発をめぐってよく取りざたされる「この場所にそぐわない」という批判である。

ららぽーとは悪くない。不満は「ららぽーと×神宮外苑」にある(写真:長田洋平/アフロ)

 このような批判は妥当なのか。

 それとも、単なる印象論や感情論にすぎないのだろうか。

「場所」をめぐる研究領域といえば、地理学である。自然地理学と人文地理学に大きく分かれるが、人文地理学のなかに「人間主義地理学」という分野がある。

 代表者の一人であるエドワード・レルフは、場所に対する「本物の態度」と「偽物の態度」を区別し、偽物の態度によって「没場所性」(placelessness)が生み出されると主張する。

 レルフによれば、「没場所性とは、意義ある場所をなくした環境と、場所のもつ意義を認めない潜在的姿勢の両者を指す」(レルフ1999:298)。偽物の態度によって没場所性が生み出されるということは、いいかげんな場所づくりが「その場所らしさ」を失わせるということである。

 では逆に、「その場所らしさ」を生み出すものは何だろうか。これは「風土論」という分野で議論されてきたテーマである。