(イラスト:宮沢洋、以下同)

(宮沢 洋:BUNGA NET編集長、編集者、画文家)

 これまでも名建築のイラスト解説書を何冊か書いてきた筆者(宮沢洋)だが、近著『はじめてのヘリテージ建築~絵で読む「生きた名建築」の魅力』では、特に「食べ物」のイラストに力を入れた。その例が冒頭のイラストだ。

 自分で書いたものながら、よだれが出そう。なぜ食べ物なのか、の前にまず「ヘリテージ建築って何?」という疑問に答えよう。「まえがき」の序盤を引用する。

 本書のタイトルを見て、「ヘリテージ建築って何?」と思われた方も多いだろう。辞書を調べると、「heritage(ヘリテージ)=遺産。継承物。または伝統。伝承」と書かれている。「ヘリテージ建築」という言葉は、辞書で引いても、ずばりの解説は見当たらない。

 そこで今回、本書ではこう位置付けた。

「ヘリテージ建築とは?──完成から長きにわたって人々に愛され、今も心地よく使われている建築物。築年数にかかわらず、利用者の記憶を継承し、つくり手の思いや業績を伝えるもの」

 もともとは日本最大の設計事務所、日建設計のSNS「note」に、2021年5月から2年間にわたって連載したものだ。日建設計の「ヘリテージビジネスラボ」から連載の話があった時、「それは社会的な意味が大きい!」と即断でOKした。

 ヘリテージビジネスラボは日建設計に2016年に生まれた「古い建物の利活用」を専門とする部署。同ラボを率いる西澤崇雄さんと、日建設計が何らかの形で関わったプロジェクトを取材して回った。計20件を、イラストと写真、文章でリポートしている。江戸時代につくられた「元離宮二条城」から、平和の象徴「原爆ドーム」、移転継承された「宝塚ホテル」まで幅広い。

 この企画でなぜ、食べ物に力を入れたのか。

 そもそもが「人々に愛される名建築」なので、建築として十分すぎる魅力を持っている。それについては私以外の人も書いてきた。それでもその魅力の前を素通りしてしまう人を振り向かせるには、「味覚」の一押しが重要だと筆者は思うのである。以下は書籍からの引用だ。

 人間は五感でものを認識する。絵画は主に視覚。音楽は聴覚。対して、建築では視覚、聴覚、嗅覚が同時に刺激され、手すりなどに触れば触覚も働く。唯一、欠けているのは味覚。これを刺激すれば、五感全てで空間を味わう“最強の体験” となる。

 ……と、もっともらしいことを書いたのだが、実は書籍に書かなかったもう1つの理由があり、そっちの方が大きい。それは「食べ物の絵を書くのは楽しい」ということ。普段、定規を使って幾何学的な絵を書くことが多いので、手だけで書ける食べ物の絵が何と自由で気持ちが上がることか……。

 前置きが長くなったが、本書の中での“食べ物イラスト自信作”4件を、当該部のテキストとともに紹介したい。