「退職金や親の遺産を大きく減らした」と苦情

 そんな投機的な債券が広く出回った背景には、長期化する低金利下でも高い利回りが狙えるという投資家側の期待、そして、顧客からは見えにくいがほかの金融商品に比べ極めて高い実質手数料が得られるという金融機関側の事情が指摘されている。

 特に構造的な経営難が続く地方銀行にとって、仕組債は貴重な収益源だ。さらに、日本では「債券は株式より安全」と考える人が多く、高利回りの債券は個人投資家にも一見魅力的に映る。

 しかし、高齢者や投資初心者への販売が増えた結果、近年は仕組債がらみのトラブルが目に付く。

 金融庁や消費者相談センターには、「虎の子の退職金や親の遺産を大きく減らした」と訴えるシニア層などからの苦情が後を絶たないという。証券・金融商品あっせん相談センター(FINMAC)が紛争解決手続きを行った件数は、2018年度の7件から2019年度33件、2020年度69件へと大きく増えた。

 そこで金融庁が、仕組債の中で最もポピュラーな「EB債(他社株転換可能債)」について、2019年4月に個人向けに販売された856本を対象に、2021年12月末までの償還実績や時価情報などを調査したところ、中には3カ月で元本の8割を失ったケースまであったという。

 仕組債の商品性や販売体制を問題視した金融庁は、2022年8月発表の「2022事務年度金融行政方針」で、「仕組債を取り扱う⾦融機関に対しては、経営陣において、取り扱いを継続すべきか否かを検討しているか、継続する場合にはどのような顧客を対象にどのような説明をすれば顧客の真のニーズを踏まえた販売となるのかを検討しているかといった点についてモニタリングを行う」とし、経営レベルでの判断を促した。