(英エコノミスト誌 2023年5月20日号)
中国が低軌道上に自前の衛星コンステレーションを構築したがるのはなぜか。
スターリンクに気をつけろ――。
中国の人民解放軍がこう呼びかけている。
スターリンクとは、電気も電話もない人里離れたところに高帯域幅のインターネット接続を提供するべく設けられた巨大な通信衛星網で、運営しているのは米国の民間企業スペースXだ。
ウクライナの戦争に欠かせない設備
だが、米ワシントンの政府高官は間違いなくこれを利用していると人民解放軍の機関紙「解放軍報」は警鐘を鳴らす。
スターリンクが昨年、ロシアの侵攻を受けたウクライナで利用可能になった時には、「覇権にとりつかれた米国」の「グル」だとこき下ろした。
スペースXに支援を要請したのが当のウクライナだったことなどお構いなしだ。
スターリンクはウクライナの戦争努力に欠かせないものになっている。
兵士がコミュニケーションを取り合ったり、攻撃の標的を特定したり、世界の人々が見られるように動画を投稿したりできるのは、すべてこの通信網のおかげだ。
このシステムの通信を妨害するのは難しい。
中国にしてみれば、スターリンクは友好国のロシアを不利にするだけでなく、台湾をめぐる心配の種にもなる。
台湾でスターリンクへのアクセスが可能になれば、中国による侵攻がはるかに難しくなるからだ。
だが、中国の懸念はそれにとどまらない。
同国は、米国がスターリンクを介して低軌道の縄張りをどんどん広げていくのではないかと恐れている。
中国もこの分野の大国になりたがっている。また、スターリンクのようなシステムで提供される能力を欲しがっている。
自前の衛星コンステレーションの構築に乗り出しているのはそのためだ。