(英エコノミスト誌 2023年5月20日号)
ジョー・バイデン大統領は米国の強みを過小評価し、米国がいかにその強みを獲得したかを誤解している。
米国は1940年代から1950年代初めにかけて、戦争のカオス(混沌)から新しい世界秩序を打ち立てた。
どれほど欠点があったとしても、この秩序が超大国間の平和を維持し、数十億人を貧困から救い出す数十年間の経済成長を下支えした。
今日、グローバルなルールと自由市場、そして双方を支えるという米国の約束を基礎とするその秩序がほころび始めている。
米国では、有害な党派心が政府に対する人々の信頼を損なった。
2007~09年の金融危機は市場に対する信頼を低下させた。イラクとアフガニスタンでの米国の失敗は、民主主義を広めるという同国の主張に傷を付けた。
今ではほとんどの国がロシアへの制裁実施を求める米国の呼びかけに応えようとしない。
そのうえ米国の政治家は中国の台頭に触発され、地政学に対してこれまで以上に利己的かつゼロサム的なアプローチを採用している。
中国の台頭で高まる戦争の脅威
中国の台頭は戦争の脅威も高めている。
今月で100歳になるヘンリー・キッシンジャー氏は本誌エコノミストによるインタビューのなかで、中国と米国は対決に「向かっている」と警鐘を鳴らした。
「どちら側も、相手が戦略的な脅威を体現していると確信している」と語った。
リスクはこれ以上ない水準まで高まっている。
何しろどちらの国も核兵器を保有しており、人工知能(AI)という予測の付かない技術にも手を出している。
長老のなかの長老たるキッシンジャー氏は、ちょうど第1次世界大戦前夜と同じように、超大国が偶発的な出来事をきっかけに破局に巻き込まれると懸念している。
ジョー・バイデン氏は2021年にホワイトハウスの大統領執務室に入って以来、新しい戦略を築いた。米国が傑出した存在であり続けるための、そして紛争のリスクを引き下げるための戦略だ。