一度も姿を現さない経営者

 Iさんが副業をするメンズエステは、繁華街に3店舗ある。そこに女性セラピストを交代で配置し、客はそこでサービスを受ける。

「店舗と言ってもただのワンルームマンションです。いずれの部屋にも応接セットとレザーのマット、あとは洗濯機があるだけ。オーナーは僕の住む県には住んでいないので、現地で動く役を僕がやっています」 

 Iさんはオーナーから、LINEで発注を受ける。トイレットペーパーやゴミ袋、お茶、紙コップ、クイックルワイパーなどを購入し、女性セラピストや客のいない時間にそれぞれの部屋に運ぶ。

 基本的な仕事はそれだけ。Iさんは店長でも何でもなく、在籍する女性たちの勤務管理は遠方にいるオーナーが行い、やはりLINEで指示を出しているという。オーナーは「もしもの時」を警戒し、リモート経営をしているのだろうか。

「グレーな商売ですから、いつ何時、警察が踏み込んでくるのかわからない。僕は『頼まれてやっていただけ』と言い張れるよう、荷物を置いたら即退出しています」

 しかし、度々ヤボ用が発生する。

「業務で使用するタオルなどの洗濯は女性の仕事で、部屋に備え付けてある洗濯機でシフトに入った人がやることになっています。しかし、洗濯されないままタオルが山積みになっていることがあり……」

 そんな時は、Iさんがタオルを抱えてコインランドリーに走ることになる。

「ゴミ捨ても女性の仕事なのに誰もやらず、ベランダがゴミの山になっていることもあります。それを捨てるのも僕です」