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(池田 信夫:経済学者、アゴラ研究所代表取締役所長)

 岸田政権の目玉は「異次元の少子化対策」である。その具体策として児童手当の拡大、出産費用の公的保険適用、給付型奨学金の対象拡大などが挙げられているが、どれも「異次元」ではない。旧態依然のバラマキ福祉である。

 これが今まで長期にわたって検討されながら進まなかった最大の原因は財源である。社会保障の財源としては社会保険料をあてることが原則だが、その赤字を消費税で補填してきた。しかしその増税に反発が大きいため、社会保障会計の赤字がふくらんで、にっちもさっちも行かなくなった。それを今度はどう打開するのだろうか。

現役世代の負担を増やす倒錯した少子化対策

 そもそも少子化の何が問題なのだろうか。確かに人口が減るとGDP(国内総生産)は減るが、一人当たりGDPでみると、日本は今後も1%程度の実質成長率は維持できる見通しだ。日本の人口密度は世界最高水準なので、人口が減るのは悪いことではない。

 生産年齢人口が減ると労働力が不足するという問題もあるが、これは賃金を上げればいい。事務労働の機械化も進むので、絶対的な不足は大した問題ではない。本質的な問題は労働生産性の低下であり、これは少子化対策で解決できない。

 最大の問題は、子供が減ると社会保障の負担が現役世代に大きく片寄ることで、これを解決できない少子化対策は無意味である。ところが自民党の「論点整理」にも政府の「こども未来戦略会議」の案にも、財源の話はまったく出てこない。

 茂木敏充幹事長は、テレビ番組で「増税と国債は今、考えていない。さまざまな保険料について拠出は検討していかなければならない」と発言した。新設されたこども家庭庁の予算は4兆8000億円。これについては渡辺由美子長官も記者会見で「社会保険のシステムで出てくる財源、税、歳出改革の組み合わせでしかない」と述べた。