自動生成AIは本当に役に立つのか?

「チャットボット」で世界が沸騰しています。

 筆頭は何と言っても2022年11月に公開された「ChatGPT」。たった2か月でアクティブユーザーが1億人を突破し、開発元のオープンAI社は評価額が290億ドルに達しました。

 イーロン・マスク氏などをファウンダーとして2015年に設立された同社は、2019年、マイクロソフトから出資を受け、いまや業界の盟主グーグルにとって最大のライバルとなっています。

 ご存知のように第3次AIブームに火をつけたのはグーグルの「ネコ」同定でした。

 従来の検索エンジンが「自然言語処理」技術に立脚し、記号化された対象を調べていたのに対し、画像から記号を介さず、直接情報を抽出することで、全世界にセンセーションを巻き起こしました。

 この技術を念頭に、最初にイノベーション・ターゲットとして設定されたのが「自動運転」のテクノロジーだったのはいまだ記憶に新しい所と思います。

 2010年代、アンゲラ・メルケル政権下のドイツ連邦共和国が国是とした「インダストリー4.0」はAI立国を基軸とし、技術開発の中心目標として「自動運転技術の開発」が掲げられました

 そんな欧州の官主導の精力的な投資と対照的に、民間主導で自動運転技術を発展させた米国で、業界の旗手となったのがテスラのイーロン・マスク氏でした。

 そのマスク氏たちがマイクロソフトの追い風も背景にグーグルに挑みかかったChatGPT、その可能性と功罪を考えてみたいと思います。

「自然言語処理」から「深層学習」へ
イノベーションの源流探訪

 ここで、時代を牽引する技術の流れを簡単におさらいしておきましょう。

 1989~91年にかけての冷戦終結期まで、何だかんだ言ってイノベーションを引っ張ってきたのは米ソの冷戦構造を背景とする軍事技術でした。

 ところが冷戦が解消してしまうと、巨額の軍事支出を正当化するシナリオがなくなってしまいます。

 かつてスタンリー・キューブリック監督が映画「博士の奇妙な愛情」で描いたようなミサイル核戦争は「キューバ危機」を頂点にリアルに警戒され、1970~80年代に入ると万が一、1か所を攻撃されても同じ司令塔の役割を果たせる場所がいくつも確保されているような弾道弾防衛ネットワークが構想立案、実装されました。

 仮にワシントンDCのミサイル基地が攻撃されても、同じ迎撃能力を持つ指令基地がシアトルにもロサンゼルスにもある分散ネットワークシステム。

 これを支えてきた巨額の軍事予算が蒸発するとともに、1995年から民生に開放されたのが「インターネット」の始まりでした。

 この時期、米ソの緊張が消えたのち、「全人類共通の敵」として位置付けられた一つに「疾病」がありました。