米軍供与の携帯型地対空ミサイル「スティンガー」はロシア空軍の脅威だ(写真は2月6日、アリゾナ州で発射訓練中の米海兵隊員、米海兵隊のサイトより)

 ウクライナ軍は、ロシア軍の攻勢を止め、部分的な攻撃に成功し、ハルキウやへルソンを奪回している。ロシア軍の攻勢をしのぎ切れたのには、

①露軍の航空作戦(戦闘機等と攻撃ヘリによる攻撃)を電子戦を含む防空戦で、

②機甲戦力による攻撃を対戦車ミサイルと自爆型無人機で、

③砲兵戦力による攻撃を精密誘導長射程火砲で、防いだからだ。

 今回は、これまでJBpressに投稿していない「ウクライナ軍の防空作戦」に焦点を当てて考察する。

 考察に当たっては、筆者が陸自高射学校(防空兵器教育機関)で学んだ対空兵器の整備・修理技能を参考にした。

1.勝敗決める防空能力

 ウクライナ軍は多くの損失を出したものの、米欧から多くの支援を受けて戦力を回復し、さらに増強している。

 今、私は「ウクライナ軍の防空戦力」に注目している。

 これが生き残ったことで、ロシア軍から航空優勢を取られることはなかった。侵攻当初、ロシア軍が航空優勢を確保できなかったことが大きな要因である。

 この春に、ウクライナ軍は大反撃に出る。一方、ロシア軍も総攻撃を仕掛けると予想されている。

 両軍が攻勢に出るのであれば、ウクライナ戦争の最大の山場になる。

 ウクライナ軍は、機甲戦力(戦車・装甲歩兵戦闘車)で反撃を行い、ロシア軍を国境外に押し返そうとするだろう。

 一方、ロシア軍は機甲戦力や兵員に大きな損害を受けた。

 航空戦力は当初の1か月に大きな損害を受けたもののまだ多くの戦闘機等や攻撃ヘリも残存している。防空兵器については、保有数1520基の85%近くが残存している。

 大きなダメージを受けているとはいえ、ロシア軍は、ウラジーミル・プーチン大統領から、残っている兵器を投入して決死の覚悟での総攻撃を求められるに違いない。

 対するウクライナ軍は、どうやって守り切るか、反撃に出るのだろうか。

 戦いに重大な影響を与え脅威になるのは、多く残存しているロシア軍の航空戦力(戦闘機等と攻撃ヘリ)だ。

 もしも、この航空部隊が命懸けで攻撃してくれば、ウクライナ軍は防空網を充実させない限り、機甲部隊による地上戦も航空戦力による対地攻撃支援も実施できない。

 今後の両軍の地上戦では、ロシア軍の自爆型無人機を含む航空作戦とウクライナ軍防空作戦の成否が勝敗の分かれ目になる。

 では、ウクライナ軍の防空作戦能力の実態はどうなのか、ロシア軍航空戦力の攻撃を防ぐことは可能なのか、そして、ウクライナ軍の機甲戦力の突進に貢献することができるのだろうか。