共産党の一党支配にあるベトナムは、1979年に勃発した中越戦争を経て、その後は年々、中国共産党との共産党同士の関係を深めており、現在、経済的には中国に大きく依存している。一方で、南シナ海では中国との間に領有権問題を抱え、経済での蜜月ぶりとは異なり、安全保障分野ではしばしば対立している。

 そうした中国に対する警戒感から、ベトナム政府は1435ミリの標準軌への転換をためらってきた経緯がある。

 そのために、今回再浮上した高速鉄道計画では、中国ではなく、日本に対して協力を要請したということなのだろう。

ベトナムからの支援要請に日本は……

 では日本政府はこの要請にどう応じるのか。

 ベトナムの高速鉄道計画は、2010年に閣議決定されたものの、その後の国会で「建設費用が巨額である」として否決されている。近年のベトナム経済の急成長ぶりからして、資金面では当時よりも余力があると見られるが、国会の同意をどう取り付けるかも大きな問題だ。

 そして何より、日本は要請に応じるのか、そして協力するとしたらどこまで協力するのか、も大きなテーマとなる。かつてインドネシアの高速鉄道計画の入札で、日本にほぼ決まりかけていたににもかかわらず、インドネシア政府に裏切られるような形で、土壇場で中国にさらわれるという事態が発生した。

 そのような事態は論外だが、だからと言って採算度外視で建設や運営にまで携わるのも問題だ。また一方では、経済的に昔からかかわりが深いベトナムとの関係や、一帯一路の拡充を目指す中国の存在を考えれば、ここは日本が積極的にかかわりベトナムのインフラ整備を推進すべきという考え方にも大いに理がある。

 ファム・ミン・チン首相との会談で、鈴木俊一財務相がどのような反応を示したのかまでは伝わってきていないが、日本としては熟考が必要な案件になるだろう。

 2030年までに一部区間の工事を終え、2045年までに全線の開通を目指すというベトナムの高速鉄道計画。ベトナム国民の夢はどのような形で帰結するのだろうか。