「金融資産と有望な人材を日本国外へ流出させる愚策」「経済に貢献した個人への懲罰的な課税」…。楽天グループの三木谷浩史会長兼社長が、富裕層の税負担を強化する政府与党の方針を「文春オンライン」を通じて強烈に批判した。これは「富裕層による、富裕層のための批判」だろうか。本当に頭脳流出は起きるのだろうか。
提言に疑問を投げかけた社会学者の西田亮介・東京工業大学准教授に見解を聞いた。(聞き手:河合達郎、フリーライター)
※参考:「文春オンライン」が配信したYahoo!ニュース『三木谷浩史氏「政府与党は課税強化を見直すべき 有能な人材が日本から出ていく」』
※参考:新経済連盟・三木谷浩史代表理事による「高所得者層の税負担増加に向けた検討に対する緊急コメント」
楽天がAmazonと伍するようになれば…
――三木谷氏の提言に対し、Yahoo!ニュースのコメント欄で「課税強化したくらいで逃げていく富裕層は日本社会の重しを応分負担する気のない人たちであることが浮き彫りになるはずだ」「果たしてその人たちは『有能な人材』なのだろうか?」と皮肉を交えて疑義を唱えられました。
西田亮介氏(以下、西田氏):楽天が世界で大成功して、Amazonと伍するような企業になれば、三木谷さんの話も説得力を持つと思います。
大変シンプルで、楽天も主力事業は国内事業ですよね。英語化云々と言っていますが、本社は東京・二子玉川にあります。日本でのビジネスが収益の大半でしょう。
例えばこの状況で、海外に拠点を移せるんでしょうか。優秀な社員の人材流出が起きるんでしょうか。流出する人材とは誰のことを指して言っているのでしょうか。
課税強化で頭脳流出などまったく非現実的です。資産の移動はあるかもしれませんが、人材のフライトなどほぼありえないと考えています。
楽天のように、日本のビジネス、富裕層は全般的にドメスティックに閉じています。ビジネスパーソンや経営者の流動性は、データ的にはほとんど観察されていません。
我々は、言語の壁と低水準の賃金、そして基本的には日本が大変快適な社会であるということからして、なんだかんだ日本にロックインされています。