予知は難しいので基礎調査重視へ

 阪神・淡路大震災の前は、大地震の直前に前兆をつかんで予知できそうだと多くの地震学者たちは考えており、活断層が引き起こした濃尾地震(1891年、死者7273人)以降、地震予知は国家事業として取り組まれてきた。

 たとえば1962年に地震学者たちがまとめた「ブループリント」*4と呼ばれる地震予知計画は、「地震予知がいつ実用化するか、すなわち、いつ業務として地震警報が出されるようになるか、については現在では答えられない。しかし、本計画のすべてが今日スタートすれば、10年後にはこの問に充分な信頼性をもって答えることができるであろう」と楽観的に書いていた。

 しかし、阪神・淡路大震災を境にその方針は大きく変わる。

 旧文部省の測地学審議会がまとめたレビュー(1997年)*5では、ブループリント当時の想定について、「30年後の今日なお予知の実用化の見通しが立っていない」と率直に振り返っている。うまくいかなかった理由の一つとして、「地震前の異常現象の報告が増えるにつれ、前兆現象が仮に発現するとしても、それは複雑多岐にわたり、蓄積された事例を総合化して発現機構を究明するとしたら、予想をはるかに上回る長期間を必要とする」と説明している。

 一方で、阪神・淡路大震災後、活断層の基礎的な調査や研究はかなり進んだ。航空写真から活断層の場所を特定したり、活断層を実際に掘り起こして過去の地震の時期や規模を調べたりしている。

 たとえば、国土地理院は2万5000分の1の地図に活断層の位置を示した活断層図を1995年から作成しており、ネットで誰でも無料で見ることができる(図2)*6。明らかになった活断層の位置や性質をもとに、ハザードマップも各地で整備された。

(図2)福岡市の真下を通る警固断層(赤線) 出典:2万5000分の1都市圏活断層図「福岡(改訂版)」国土地理院
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 最近20数年で、活断層の調査や研究はずいぶん進んでいたように見えていた。

*4 地震予知計画研究グループ「地震予知―現状とその推進計画」1962
http://www-solid.eps.s.u-tokyo.ac.jp/~ssj2012/Blueprint.pdf

*5 測地学審議会地震火山部会「地震予知計画の実施状況等のレビューについて(報告)」1997年6月(https://www.zisin.jp/publications/pdf/dai1-7-review.pdf

*6 国土地理院 活断層図(都市圏活断層図)について(https://www.gsi.go.jp/bousaichiri/active_fault.html