一般教書演説するトランプ大統領(当時)の後ろで渡された教書原稿のコピーを破るペロシ下院議長(2020年2月5日、写真:ロイター/アフロ)

「民主党の顔」だった10年間

 米民主党は上院では半数を取ったものの下院を共和党が小差で制したことで、ジョー・バイデン大統領の政権運営は一段と厳しくなる。

 元々下院は負けるとされていたからむしろ善戦したというべきだが、負けは負け。来年1月からの米議会は「ねじれ議会」となる。

「米議会が『ねじれ議会』になることは中間選挙前から予想されていた。民主党にとっては、上院を制覇したことだけでもよしとすべきだ」(米主要紙の議会担当記者)

 だがバイデン氏が大統領就任後、新型コロナウイルス感染症対策、インフラ再建など数々の難題をクリアできたのは、予算関連法案の審議では先議権を持つ下院で過半数を堅持してきたからだ。

 その要としてバイデン氏を支えてきたナンシー・ペロシ下院議長(82)が表舞台から去る。

 2002年以降、民主党が野党の時は少数派院内総務として、与党の時は史上初の女性下院議長として10年間、ワシントン政界に君臨してきた。

 11月15日、2024年大統領選に再出馬を表明したドナルド・トランプ前大統領に対する弾劾決議案上程を事実上指揮し、2021年の米議会乱入事件の「1月6日事件真相究明特別委員会」設置を実現させたのはペロシ氏だった。

https://thehill.com/homenews/house/3739693-pelosi-steps-down-as-house-democratic-leader/

https://rollcall.com/2022/11/17/pelosi-opts-to-step-down-as-democratic-leader/

 今年8月には台湾を電撃訪問し、蔡英文総統と会談、「台湾防衛」を約束し、中国の習近平国家主席を怒らせたのもペロシ氏だ。

 中国は39機の戦闘機・13隻の軍艦(延べ数)を台湾周辺に出動させて軍事挑発に出た。

 米第7艦隊も台湾周辺に出動して一時は一触即発の事態を招いた。

「中間選挙を控え、中国に対しては弱腰と見られてきたバイデン氏にハッパをかけ、返す刀で反中ムードの共和党支持層、無党派層の票をかっさらうのが狙いだった」

「人権抑圧糾弾はペロシ氏の政治理念。それだけに中国のチベットや新疆ウイグル地区での人権弾圧には1987年に下院議員になって以来言い続けてきた。台湾問題はその延長線上にあった」(米議会ウォッチャー)

 釈迦に説法だが、米国の下院(英国の庶民院、日本の衆議院に相当)議長は、大統領権限継承順位では副大統領兼務上院議長に次ぐ第2位。

 日英の下院議長とは異なり、議事の主宰・進行は自党の他の議員に委託、自党の「党首」として政策全般に関わる管理・手続き上の絶対権限を持っている。

(日本の衆議院議長が、日本政治が過渡期を過ぎてからは長老格の政治家が最後に就任する「上がりポスト」にされてきたのとは大きく異なる)