著名な育児論や教育法はたくさんあるけれど、理想通りにいかないのが子育て。だからこそ、机上の空論ではなく、実際に日々悩み、模索しながら子育てに向き合ってきた先輩たちのリアルな声が聞きたい。そんな思いから、独自の育児をしてきた先輩パパママたちの“子育て論”を聞く本連載。
今回は料理研究家の上田淳子さんにお話を伺う。テレビ、広告、雑誌で活躍しながら、双子の母としての育児経験を活かし、食育活動にも注力。プロでもぶつかった子どもの食に関する壁と乗り越えるためのヒントとは。
頭を悩ませる子どもの食問題
食べない、好き嫌いが多い、偏食……子育て中に避けて通ることのできない、子どもの食問題。料理研究家として多方面で活躍する上田淳子さんもその問題と向き合った一人。双子の男の子を育て上げた母でもある。
「食のプロだからって、うまく行くわけではないんです。みなさんと一緒。離乳食の段階からかなり苦労しました。失敗の繰り返しというか、もう泣き笑いの連続。今まで大人しく水を飲んでいたのに急にコップをひっくり返して水遊びを始めるし、ミートボールは食べ物ではなくボール扱いで投げ飛ばされたり……」
当時から料理研究家としてフリーランスで活動していた上田さんは、出産に合わせて仕事も一時休止。保育園にも預けられず、双子たちと向き合い続ける日々が続いていた。
「今考えると育児ノイローゼに近い状態だったと思います。でももうノイローゼになる時間があるんだったら、寝たい! 24時間彼らと一緒に過ごしていて、もうダメだ!って投げ出したくもなるときもあるけれど、目の前にいるしね(笑)。お茶を飲むのも、トイレに行くのも、歯磨きすることも忘れてしまうような状況でした」
遊び食べ、好き嫌い……少しずつ見出した解決策
離乳食に苦戦し、精神的にも追い詰められ、やりたかった仕事も休業中。思わずふさぎ込んでしまいそうな局面だが、上田さんがその壁を乗り越えられたきっかけは、食卓での子どもたちの姿だった。
「ご飯を食べなかったり、遊び出してしまったり、苦戦ばかりしていたけど、観察を続けると私が悪いわけではないという結論に達したんです。これは我が家が双子だったことが幸いしています。
だって同じ遺伝子を持つ一卵性の双子なのに、食の好みがまったく違うんです。一人は食べていなくても、もう一人はしっかり食べている。つまり、私の作る食事がまずいわけではない。となると、なぜ一人はこれを食べないんだろうという原因究明に乗り出せるわけです」
ここで、上田式方程式を詳しく解説しよう。
「例えば、ほうれん草が大好きなAはブロッコリーもピーマンも食べられる。だけどBは絶対に食べない。逆にAは、ざらっとした食感のかぼちゃや甘味の強い野菜は食べない。これはもはや個性です。ほうれん草もかぼちゃも緑黄色野菜だから、両方必ず食べられるようになる必要はない。でもいつも両方用意しなくてはならない母は面倒。だから解決したい。
まず、かぼちゃを滑らかな状態に裏こしして出してみる。すると食べる。つまり食感が苦手なのね、という答えが導き出せます。そうやって調理方法などを試行錯誤していきました。食べられないことは個性なんだから、無理やり口に入れて飲み込ませるのは違う。この子がおいしいと思える方法はなんだろう?とつねに考えるようにしていました」
まるで論文を読んでいるかのようだ。子どもが食事を残してしまうと、親は思わず自分の作った料理に欠点があるのではないかと思いがちだが、「それは絶対に違う」と上田さんは力強く否定する。
「生まれてすぐは母乳やミルクしか飲めないんですよ。そこからお粥が食べられるようになったら、野菜が全部食べられるようになるなんて、とんでもない嘘のような話です。少しずつ一緒に食べられるものを増やしていくことも食育なんです。子どもと一緒にハードルを超えていく感覚ですよね。
そう考えれば、好き嫌いが多ければ多いほど、伸びしろがあるとも受け取れます。ある程度大きくなってから嫌いを克服できると喜びますし、その瞬間を共有できたときは、親としてもうれしい。それに栄養を毎日単位で考えずとも、昨日は野菜をたくさん食べたから、今日は納豆ご飯でもOK。りんごを足しておこうかな、なんて思えるぐらい柔軟に対応しても子は成長します」