(英エコノミスト誌 2022年10月22日号)
中核事業のフェイスブックが失速するなか、メタは別の次元で成功を狙う。
夜更けのソープストーン・コメディ・クラブに来ている。と言っても、ここはいつも夜更けだ。
米メタ(旧フェイスブック)の主力メタバースアプリ「ホライゾン・ワールズ」のなかにあるスペースで、ユーザーは仮想現実(VR)でコメディを見ることができ、自ら演じることもできる。
「足がないと難しいんだよね、立ち上がるのって」
自分のアバターが宙に浮いていることを身振り手振りで表現しながら、ある演者がそんな皮肉を口にしたところ、次の瞬間、何かのはずみで仮想マイクを落とし、ステージの外に飛んで行ってしまった。
VRの夜のバーには、本物のバーの雰囲気にはある何かが少し欠けているものの、本物そっくりのめまいと吐き気を引き起こしてはくれる。
社名変更から下り坂
会社の名前がフェイスブックからメタに変わるとマーク・ザッカーバーグ氏が発表してほぼ1年が過ぎた。
メタバースへの取り組みの真剣さを示すためだったが、悪化した企業イメージから逃げ出すためでもあったことは間違いない。
メタバースという言葉が何を意味しているのかピンとこない人が多かったものの、同社の市場時価総額が1兆1000億ドルという過去最高に近い水準にあったこと、中核のSNS(交流サイト)広告事業がパンデミックを背景に絶好調だったことから、投資家はこの実験の成り行きを見守ることにした。
その後の1年で状況は変わったようだ。
巨額の資金が投じられているにもかかわらず、メタバースは鳴かず飛ばずだ。
一方、メタの経費をカバーしているSNSからユーザーと広告主の両方が逃げ出している兆しがある。
社名変更以降、同社の株価は60%下落し、5000億ドルを超える時価総額が吹き飛んだ(図1参照)。
ブルームバーグのデータによれば、2023年の予想利益も50%前後下方修正されている。
次の四半期決算は10月26日に発表予定で、証券会社バーンスタインのマーク・シュムリック氏は「存在にかかわる四半期」になると見ている。