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クリミア大橋の完成式典で、トラックに乗り込むプーチン大統領(2018年5月15日、写真:ロイター/アフロ)

(文:名越健郎)

クリミア大橋爆破事件の延長線上に「核攻撃」はあるか。謎のSNSアカウント「SVR将軍」は、プーチン大統領が核使用の是非を最高意思決定機関・安全保障会議のメンバー13人に諮る方針だと伝えた。ロシアの専門家も疑心暗鬼の状況だが、強硬派「戦争党」の動きに加え、「殉教者として天国に行く」といった発言を続けるプーチン大統領の精神状態も焦点に。

 岸田文雄首相は10月11日、G7(主要7カ国)首脳のオンライン会談後、「ウクライナを新たな被爆地にしてはならない」と述べ、ロシアによる核兵器の使用や威嚇に厳しく警告した。

 ウラジーミル・プーチン大統領は、10月8日のクリミア大橋爆破を「ウクライナのテロ」と断定してウクライナ各地の民間施設にミサイル攻撃を命じており、戦争は新段階に入った。プーチン氏は部分的動員令を発表した9月21日の演説で、領土保全に脅威が生じた場合、核の使用もあり得ることを改めて示唆している。

 追い込まれたプーチン氏が「核の選択」に踏み切るかどうかを探った。

安保会議で核使用協議か

 クレムリンの内情に詳しいとされる正体不明の「SVR(対外情報庁)将軍」は10月10日、ロシアのSNS、テレグラムに投稿し、プーチン氏が戦術核使用問題で、安保会議の常任委員が全会一致で支持するという確信を得た場合に限って、会議に諮る意向だと書き込んだ。

 ロシアの最高意思決定機関、安保会議は、大統領が議長、ドミトリー・メドベージェフ前大統領が副議長、ニコライ・パトルシェフ氏が書記を務め、首相、副首相(政府官房長)、国防相、外相、内相、SVR長官、連邦保安庁(FSB)長官、大統領府長官、上下両院議長、セルゲイ・イワノフ大統領特別代表の13人が正式メンバー。

 プーチン氏はウクライナ侵攻に際しても、2月21日に安保会議を異例の公開で開催して全会一致の承認を取り付けた。投稿内容が事実なら、プーチン氏は核使用を決める際も、安保会議の全会一致の形を取りたい意向のようだ。その場合、個人の責任を回避する狙いとみられ、世界の命運は、「プーチン殿の13人」にかかることになる。

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