(土田 陽介:三菱UFJリサーチ&コンサルティング・副主任研究員)
英国のトラス新政権による減税を主とする大型経済対策が金融市場で否定的に評価され、通貨・株式・債券の「トリプル安」につながっている。
特に債券市場の動揺は深刻で、英国の10年国債流通利回りは、トラス新政権が大型経済対策を発表する前日(9月22日)時点の終値で3.489%だったが、23日には3.822%に急上昇した。その後、10年国債流通利回りは27日に4.501%まで急騰している。
こうした事態に鑑み、イングランド銀行(BOE)は10月頭から開始するとしていた保有国債の売却を10月末まで延期するとともに、時限的な国債の購入を開始すると発表した。このBOEの決断が好感され、28日の10年国債流通利回りは4.138%まで低下している。
英国で10年国債流通利回りが4%台に乗るのは2010年以来、約12年ぶりのことだ(図1)。
【図1 英国の金利動向】
そもそも、インフレ対策としてBOEは利上げを進めており、英国の長期金利に対する上昇圧力は高まっていた。そこにトラス新政権が減税を主とする大型経済対策を発表したことで、英国の財政悪化に対する懸念が高まり、金利が一気に急騰したのだ。
これは、英国は財政悪化を反映する「悪い金利上昇」である。そのため、米国との金利差は縮小したものの、ポンドは売られることになった。
ポンドも9月23日の相場で急落し、終値で前日比▲3.6%の1ポンド=1.0856米ドルと1.1米ドル台の節目を割り込んだ。29日時点では1ポンド=1.1115米ドルまで値を戻し、ボラタイルな相場となっている。