企業や施設に委ねられている帰宅困難者のトイレ問題
山本:文部科学省の調査によれば、「避難所生活において問題があった設備」において、「トイレ」という答えが全体の7割以上で1位だったそうです。
人は食べたり飲んだりしなくても、出るものが先に出ますよね。だからトイレが即用意されなければいけません。しかし、避難所にはたくさんの人が集まるので、劇場などでよく見かける女性が行列を作るような状態が、避難所では日常的に起きてしまうのが問題だと思います。
また、避難所では、体育館などの出入口のところに、お年寄が多く避難していました。その理由はトイレが近いから。問題は、出入口などは吹きさらしでとても寒い場所だということです。
さらに、仮設トイレはすぐに届かないんです。何日もかかる。みんな仮設トイレができるまで何とか我慢しないといけないという状況が、一番大きな問題だったと思います。
そうすると、みんなトイレに行きたくならないように、水を控えて食べ物を食べなくなってしまう。その結果、健康を害してしまうという悪循環が起きて、非常に深刻になる問題が多かったですね。

──東日本大震災では帰宅困難者が首都圏で約515万人、東京都内で約352万人も出ました。帰宅困難者の有無は災害時のトイレに関する備えに大きな影響を与えると思います。現在、大都市圏では帰宅困難者の発生を想定した防災計画の策定などは行われているのでしょうか。
山本:防災計画の中には「帰宅困難者のことも考えましょう」とは書いてあります。だけど、具体的な計画ができているかというと非常に難しいです。何百万人という帰宅困難者のためのトイレを事前に用意することは不可能ですから。
帰宅困難者の対策は「帰宅しないこと」が原則になります。帰宅困難者が東京に全員滞在した時には、行政ではなく、それぞれの企業や施設などが自前でトイレを用意する、というのが今の考え方です。
例えば、オフィスに必要な携帯トイレの数を、【「1人1日用を足す分」×「利用者の数」】と考えると、すごい膨大な量になりますよね。100人いて、1日に5回用を足すとしたら、500回分の携帯トイレをオフィスに備蓄しておかないといけません。
本当は、水よりもトイレの方が備蓄の優先度が高いと思います。帰宅困難者の問題は行政の問題というよりも、むしろ企業や自分自身で考えないといけない問題ですね。
もう一つ、仮に歩いて帰る場合。コンビニやガソリンスタンドなどのお店と行政が協定を結んで、「歩いて帰ってくる人がいたら、水やトイレの部分で協力してね」という制度を作っています。官民共同でやる政策ですよね。そういう考え方は一応、防災計画の中で打ち出されてはいます。