パン工場で働く傷だらけの非正規
他の食品工場も同じような状況なのだろうか。20年以上、非正規現場を渡り歩いてきた50代の男性が、パン工場での体験を話してくれた。
「パン生地の粉を1リットル入りのカップで、ひたすら生地製造機に入れるだけの8時間では、手首がおかしくなった。8時間ずっと立ちっぱなしで、コンベアから流れる完成したパンを眺めているだけの検品作業も地獄」
チョココロネの担当になった時は、チョコを入れる部分に入れたアツアツの鉄の円錐を、パン生地からひたすら抜く作業を担当し、腕にヤケドを負ったという。
「ヤケドしても、周りのバイトは『医務室に行きな』なんて誰も言わない。自分が抜けると、作業が止まっちゃうから。作業レーンが優先で人間は機械以下。みんな傷だらけのまま作業を続けるのが当たり前の異常な世界……」
さて、筆者のスイーツ工場のバイトは、お昼休憩を挟んで夕方の17時まで続いた。コンベアが停止して放心していると、あのイラついていたメガネのおばちゃんが、話しかけてきた。
「大変だったでしょう、この仕事は本当に疲れるの。腰も痛くなるしねぇ」
おばちゃん、本当は優しい人だった。
帽子を取ったおばちゃんは、70歳くらいだろうか。ここではベテランのパートに当たるであろう70歳過ぎと思われる女性たちを何人か見かけた。高齢女性に時給1400円以上を支払ってくれる仕事は、他にはあまりないのだろう。
週末に副業バイトを経験したホワイトカラーおじさんに話を聞くと、「自分の会社やその業界のことしか知らなかったけれど、副業をして世界が広がった」という感想を漏らす人が多い。
効率化・合理化のために過度な分業が進み、やりがいのないキツイ仕事は外注、もしくは職場の非正規が担っている。おじさんたちは副業で非正規労働を体験し、「こんなの初めて!」と興奮する。『ローマの休日』でヘップバーン演じる王女が、庶民生活を初めて目の当たりにした時のように……。
工場からの帰り道、疲労する頭でそんなことを考えていたら、世間が唱える「多様性のある社会」という言葉が、絵に描いたモチに思えてくるのだった。
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