饅頭をつくる人間という機械

 重い金属製の扉の向こうには、体育館くらいの広さのスペースにスイーツの製造装置が何台も並んでいた、製造装置は音を立てて動き、その周辺をベルトコンベアが流れている。

 筆者は6人の白衣の集団に連れていかれた。そこでは機械から次々と出てくる緑のモチに、右から左へリレー形式でデコレーションを施し、スイーツを完成させるという作業をしている。機械がやらない工程を、人間がやるのだ。

 筆者は液体の入ったカップを渡されて、このリレーの中に加わった。

 まず、一人目のおばちゃんがベルトコンベアにカップを置く。
 二人目のおばちゃん、そこに中敷きのカップを入れる。
 三人目のネパール人のおばちゃん、機械から出てきた緑のモチをカップにベタンと入れる。
 四人目が筆者、ゴム手袋の手を液に浸し、モチの表面をサッとなでる。
 五人目の大学生の兄ちゃん、網状の金属をモチに押し付ける。
 六人目のおばちゃん、線のくぼみに網状のホワイトチョコを置く。
 七人目のおばちゃん、次の機械に入るコンベアにカップを乗せる。

 この10秒くらいの工程で、一つの饅頭ができ上がった。

 役割が恐ろしいくらい細分化されている。これは、斎藤幸平氏が『人新世の「資本論」』で取り上げていた、生産力を上げるため「各工程をどんどん細分化して(中略)より効率的な仕方で作業場の分業を再構成し」「自立性を奪われた労働者は機械の付属品になっていく」というやつではないか。

 筆者はモチの表面を次々になでるだけの超単純作業を、一体どういうモチベーションでやればいいのか悩んだ。「このスイーツを手にした人を、笑顔にしたい」などと一応考えてはみるものの、そんな甘ちょろいスローガンはすぐに吹き飛ぶ。

 単純作業というだけなら、まだいい。自分のペースでできないから辛いのだ。モチは2秒に1個のペースで、機械からどんどん出てくる。「ちょっと背中がかゆい」などと気を緩めようものなら、モチが流れていってしまう。人間が人間のペースではなく、機械のリズムで動かなければいけないことが、こんなにツラいとは思わなかった。

 時計を見ると、作業が始まってまだ5分しか経っていない。これを12時まで3時間続けなければいけないのか。ああ野麦峠。