タイトルは獲得よりも防衛する方が難しい
タイトルは獲得するよりも、防衛する方が難しいという。
しかし、藤井にそんなプレッシャーは無縁だった。勝敗や記録よりも、将棋の実力を伸ばすこと、将棋の真理を探究することが使命だと考えているからだ。「強くならないと見えない景色があると思うので、その地点に立てるように頑張りたい」と語っている。
藤井五冠は棋聖戦第4局で永瀬王座に勝って棋聖を防衛した2日後の7月19日、20歳の誕生日を迎えた。
当日は、豊島九段の挑戦を受けている王位戦第3局の前日だった。対局場は兵庫県神戸市・有馬温泉の旅館。
対局前日の夕食は、対局者、立会人、記録係、観戦記者、主催紙関係者らが打ちそろい、会食するのが通例。その土地の名産や食材を使った和洋のコース料理が供される。
20歳の藤井は、飲酒は解禁となったが、果たしてお酒を飲むのかどうかで注目されていた。
藤井は飲酒について、「積極的に飲みたいとは思いませんが、形の上では飲んでみます。お酒を飲むのが得意かどうか、好きかどうかは分からないので、それを確認したいという感じです」と、以前に語ったという。
藤井は体調管理のために、自宅の近所で散歩をしたことがあった。しかし、同じコースを歩いて同じ景色を見るのが退屈で、三日坊主で止めたそうだ。「散歩にも下調べが必要です」と苦笑していた。
理論派の藤井は、何事も予備知識を得たいようだ。さて、飲酒についてはどうだろうか……。
王位戦第3局の前日の夕食では、藤井の膳に食前酒(梅酒か果実酒)が並んだ(以前はジュースだった)。そして、藤井は初めて酒類を口にした。少量で甘かったので、お酒という感じはしなかったかもしれない。それでも「また機会があれば、試してみようかな」と語ったという。
田丸少年の初めてのお酒
適量のお酒は百薬の長で、食欲を増して気分が良くなる。飲みすぎると体調を崩しかねないが、藤井にその心配はもちろんないだろう。今後はビール、焼酎サワー、ワインなど、酒類を広げることを勧めたい。
王位戦第3局は藤井五冠が豊島九段に勝ち、20代で最初の勝利を挙げるとともに、対戦成績を2勝1敗と勝ち越している。
ちなみに、私こと田丸昇は15歳のとき、師匠の佐瀬勇次名誉九段(享年73)に連れられて行った将棋会の打ち上げの場で、学生服に坊主頭の姿なのにビールをつがれた。どうしたものかと師匠の顔をうかがったら、何も言われなかった。そこで、乾杯でビールを初めて飲んだら、苦かったが美味しいと思った。何杯も飲んでも酔わなかった。藤井の言葉を借りれば、「お酒が得意で、好きである」と確認できた。
私は以後も一門会の宴席でビールをたまに飲んだが、修業中の立場を自覚して禁酒することにした。毎日のように飲酒したのは19歳からだった。