R 結局、竹内さんの場合も、春馬さんのときと同じく遺書はなかったらしいのですが、解剖はされず、すぐに「自殺」と判断されました。この記事の中には、「経験のあるベテラン刑事が見れば、自殺か他殺かは判断できるという」との文が続いていますが、実際はどうなのでしょうか。

岩瀬 外表から自殺か他殺かを確実に判断できるような立派なベテラン刑事が本当におられるのなら、ぜひお話をうかがいたいくらいです。むしろ、警察官として検視の経験を積めば積むほど、誤認検視をする可能性が高くなり、解剖せずに終わることが怖くなるという話はよく聞きます。とはいえ、多くの検視官は1~2年で異動ですから、そのような怖さでつぶれる前に任期を終えられるのでしょうね。また、そもそも日本では解剖の予算が少なく、解剖率も低いので、警察も被害者なのかもしれませんが。

都内でのデモ活動の様子(Mさん提供)

うつ病薬と自殺の因果関係も詳細に調査を

M 日本で死因究明が正しく行われていれば、残された人たちは憶測を持たなくて済みますし、苦しんで後追い自殺をするような悲しい出来事も防げるはずですよね。

岩瀬 その通りです。たとえば、精神科に通院中、自殺される方がおられますが、実際にうつ病に処方されている薬の中には、「自殺したい」という気持ちになってしまうものもあるんです。たとえ事件性がなくても、薬の影響をきちんと調べていくことで自殺の予防にもつながると思うのです。ところが、どうも今の警察や監察医務院にはそういう視点がないようです。どこの病院に通い、どんな薬が処方されていたか? また、処方された薬はきちんと飲んでいたのか? といったことは最低限調べるべきです。

R 私たちは春馬くんの死を通して、日本の死因究明制度に疑問を持ちました。春馬ファンとして、この問題を真剣に社会に問いかけ、解決することはできないかと思っていろいろ調べてきました。岩瀬教授がこれまで大変なご努力をされてきたことも、過去の資料を見てよくわかりました。やはり、まっとうな死因究明制度を運用するには、「法医学研究所」の設立が不可欠なのでしょうか。

岩瀬 「法医学研究所」は必要ですが、そうした研究機関と大学をうまく連携させることが何より大切ですね。たとえば、ドイツでは大学の付属機関として法医学研究所がありますし、オーストラリアでは大学と研究所が密接な関係を保ちながら、大学の人材を法医学研究所に就職させるなど、しっかりとした関係が構築されています。