定食屋のおかずとして必ず添えられるナムル(写真:アフロ)

(田中 美蘭:韓国ライター)

 記録的な物価高騰が世界を賑わせているが、ここ韓国も例外ではない。小麦価格の高騰に伴って、「安い」と言われてきた麺料理は100円以上も値上がりした。すべての品目で30〜40円の値上げに踏み切ったパン屋もある。外食で人気のサムギョプサルも、一人前で150〜200円上昇するなど、食に関連した高騰は厳しい。

 また、アジアの中でも比較的電気が安いとされてきた電気料金についても、およそ8年ぶりだった2021年10月の値上げの後、今年7月にさらに引き上げられた。ガス料金も同様の値上げである。外食代や鉄道・バスなどの公共交通機関も、日本と比べて安いと思われていたが、それも例外ではなくなっている。

 韓国では、社員に対して「交通費」ではなく「昼食代」が支給されることが一般的だ(金額や支給方法は一括であったり、都度申請であったりと企業ごとによって異なる)。社員食堂は官公庁やある程度の規模の企業に限られ、多くはランチを会社外で食べるためだ。

 オフィス街の一角や裏通りには、日本でいう「ワンコインランチ」のような、500円程度で食べられる穴場の食堂があり、お昼時ともなれば、多くの会社員たちで行列ができる。

 韓国の定番人気ランチは、定食、トンカツ、チゲ、クッパといったところで、定食にはメインのプルコギや魚とともに、キムチやナムルといったおかずが添えられる。韓国の食堂は、どこに行ってもキムチやおかずはおかわり自由の食べ放題だから、財布に優しくコスパもいい。

 しかし、こうした食堂も、ここ数年のコロナ禍による営業制限や、上昇し続ける物価の影響などで苦しい状況となり、価格を上げざるを得なくなっている。フードロスへの関心も高まる中、おかずの無料提供に対する負担感も強い。

 韓国就活サイトの「ジョブコリア」のデータによると、韓国の会社員がランチ一食に費やす平均的な金額は、外食の場合で7400ウォン(約770円)、コンビニ6210ウォン(約646円)、社員食堂5530ウォン(約575円)、弁当持参4860ウォン(約505円)だ。

 このデータは2020年度のもので、前年の2019年と比べると、各項目の金額は2.5%上昇だった。物価高の現在は、さらに上がっているだろう。

 こうしたランチ代の急騰について、ソウルの会社員達の間では「ランチ」と「インフレーション」をかけ合わせた「ランチフレーション」という造語も生まれている。社員にとって、毎日のランチは頭の痛い問題だが、社員の昼食代を支給している企業にしても、物価高騰はやはり無視できない。