北朝鮮の顔色を窺って自主的な越境と断定した文在寅政権(写真:AP/アフロ)

(ミン・ジェウク:日韓関係専門家、フリー記者)

 北朝鮮の顔色を窺っていた文在寅(ムン・ジェイン)政権によって、罪のない韓国人が犠牲になったという事実が発覚した。尹錫悦(ユン・ソンニョル)政権が、いわゆる「西海公務員殺害事件」で殺害された公務員のイ・デジュン氏について、自主的に越北(北朝鮮へ渡ること)を試みた根拠はないと結論を下したのだ。

 韓国の海上警察は当時、越北を試みたと断定して発表したことを公式に謝罪した。事件を担当した仁川海洋警察署は、「殺害された公務員の越北を巡る真実について、現場調査と国際司法共助(民事・刑事手続きに関する各国の司法機関及び捜査機関における相互の国際的協力・補助のこと)などを通して捜査してきたが、彼が越北したとみられる証拠は発見できなかった」と7月16日に明らかにした。

 海上警察は、「長い間、心の痛みに耐えてきた遺族たちに、慰労の言葉を申し上げる」と公開謝罪した。

 文在寅政権当時、事件を捜査した海洋警察庁は「イ氏がある種のパニック障害のような精神状態のために、現実から逃避するために北朝鮮に行ったと判断される」と発表した。事実上、文在寅政権が一方的かつ意図的に越北したと断定したのだ。

「西海公務員殺害事件」とは、2020年9月22日夜、仁川空港の西北にある西海小宴平島近隣の海域で漁業指導していた海洋水産部の公務員イ・テジュンさんが失踪後、北朝鮮側海域で北朝鮮軍に銃撃され死亡した事件である。死体は発見されなかった(北朝鮮軍が焼却したと言われている)。

 当時、文在寅政権はイ氏が自主的に越北したと発表した。その理由は賭け事の借金だった。当時、「イ氏が越北の証拠はあるのか」「北朝鮮の顔色を窺った文在寅政権が自国民の死と国を等価交換した」などの批判が相次いだ。

 それでも文在寅政権は口をつぐみ、真実を隠すのに没頭した。当時、国防部が非公開会議で事件経緯を詳細に報告した時も、民主党議員は誰も問題提起すらしなかったという。

 ここにきて、結果は完全にひっくり返ったというわけだ。