北朝鮮国内の農場を視察する金正恩総書記(写真:KCNA/新華社/アフロ)

(郭 文完:大韓フィルム映画製作社代表)

 北朝鮮は新型コロナの余波で、今年の冬、食料難が深刻化すると言われている。コロナ防疫に伴う北朝鮮の国境封鎖措置によって食料輸入が急減したこと、コロナ感染のため春の田植えに労働者を投入できなかったことなどが理由に挙げられる。

 最近、平安南道文徳郡の朴(パク)氏という農家が、コロナにかかったため、協同農場での農作業はせず、個人菜園での農作業だけにしたところ、北朝鮮当局に摘発されて、処罰を受け、結果的に家族全員で自殺するという事件が起きた。彼はなぜ、一家心中を図ったのだろうか。

 朴氏は、村でも勤勉で有名な人物だった。協同農場でも仕事ができると評判の模範農作業員であった。個人菜園も充実しており、人々が舌を巻くほどやりくり上手だった。

 そんな朴氏が、協同農場の農作業を欠勤するようになったのは、北朝鮮で猛威をふるったコロナの影響だ。

 新型コロナの感染拡大は、村の2家族から始まり、あっという間に村全体を飲み込んだ。新型コロナにかかった朴氏も、体調が悪化し、寝込むことになった。

 保健当局の要請により、朴氏は自宅に隔離されることになったが、そのような中でも、彼は個人菜園だけは決して放り出さなかった。ちょうど葉ニンニクの農作業時期だったからだ。

 葉ニンニクは、葉の部分を食べる野菜だ。通常、ニンニクといえば、球根部分を指すが、葉ニンニクは球根部分が大きくなる前に、柔らかい葉の部分を収穫し食料とする。

 朴氏は、毎年早春、家庭菜園に葉ニンニクを植えていた。それだけで、半年分の食料を確保することができたため、彼は、葉ニンニク栽培を重視していた。

 そのため、朴氏は、コロナにかかっても、家の前にある家庭菜園に葉ニンニクを植え、夜には、「小土地(ソトジ)」と呼ばれる焼畑にも、葉ニンニクを植えに行った。

 ここで、家庭菜園と小土地について説明しておこう。