(郭 文完:大韓フィルム映画製作社代表)
日本のヤフオク!でもたびたび見かける「金日成時計」。この腕時計は、北朝鮮では「名刺時計」と呼ばれる。韓国でもわざわざ代行業者を利用し、ヤフオク!で購入する愛好家がいる。
名刺時計とは、北朝鮮がスイスのオメガに特注した、金日成主席の親筆署名が刻まれた自動巻き腕時計のことだ。北朝鮮で最高レベルの功労を立てた人々だけに与えられる、名誉な贈り物であり叙勲である。
2017年頃、この名刺時計がネット通販大手の米イーベイに出品され、5495米ドル(約71万円)で売買されたことがあった。「金日成」の名前が刻まれた名刺時計が、こともあろうに米国の競売サイトで取り引きされたのだ。
この件を知った北朝鮮指導部は激怒し、国家保衛省(秘密警察)の人間が出品した当事者を割り出すために現地に派遣された。最高の名誉である名刺時計を、海外の競売サイトに売りに出したのは誰だったのだろうか?
名刺時計は、金日成主席の還暦を記念して1972年に初めて作られた。当時、後継者だった金正日総書記(当時)が、父である金日成主席の還暦の贈り物として、金日成の親筆署名が刻まれた時計をスイスのオメガに直接、特注して贈呈したことが名刺時計の始まりである。
この時、金日成主席の名前を「オメガ」の商標より上に刻んでほしいという北朝鮮側の要求と、それはできないというオメガ側の主張が拮抗して、摩擦を起こしたこともあったが、最終的に北朝鮮側がオメガの長期的な安定顧客になるということで、オメガマークの上に金日成主席の名前が刻まれることになった。