(立花 志音:在韓ライター)
韓国に新しい大統領が就任する前の週末に、世界で活躍する韓国出身オペラ歌手、スミ・ジョーのコンサートを観覧した。筆者の住む全羅道でも公演があったのだ。
韓国で彼女の名前を知らない人はモグリである。ソウル大学で声楽を専攻後、イタリアに留学した彼女は晩年のカラヤンに才能を見出されて世界的なスターになった。彼女は、音楽は世界共通語だといつも話している。
日本人女性指揮者、西本智実氏との親交も深く、2010年にリトアニアで初共演して以降、日韓国交正常化50周年を記念してサントリーホールでガラコンサートを二人で開催するなど、世界各地で数多くの共演をしている。
コンサート曲目を収録したアルバムのジャケット写真は、「ベルサイユのばら」のオスカルとマリー・アントワネットのようで、見ているだけでもうっとりする。
現在、ヨーロッパを拠点に活動しているスミ・ジョーは、韓国でも圧倒的な人気を誇り、帰国するたびにメディアに引っ張りだこだ。テレビでも舞台でも、彼女は登場と同時に場の雰囲気をガラリと変える。花が咲き乱れるかの如く、一気に華やかになるのだ。そして、彼女は自身のスター性を自身がよく理解している。
今回の舞台でも歌姫というよりは、女王の貫録を見せつけてくれた。
一歩一歩進むたびに、観客を笑顔で惹きつけ、歌う一節一節がかなりのオーバーアクションだが、それがまたチャーミングでとても魅力的なのだ。
そのうえ、共演した若手のテナー歌手の歌声がまた、のびのびとして素晴らしかった。新たな大物歌手も発掘して、1回の公演で2回分のエンターテインメントを提供された気分になった。アンコールは3回ほど行われ、最後は観客全員のスタンディングオベーションで拍手はなかなか鳴りやまなかった。
子供の頃から、ありとあらゆるクラシックコンサートを見てきた筆者だが、こんなに感動したのは何年ぶりだろうか、もしかしたら初めてかも知れない。100点満点で200点を付けても良さそうな公演だった。