(英エコノミスト誌 2022年6月4日号)
核爆弾を使う脅しで、ロシア大統領は核の秩序をひっくり返した。
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は100日前、核攻撃もあるぞと警告してウクライナ侵攻を開始した。
ロシア保有の核兵器を賛美し、ウクライナを従属させると公約し、「歴史上誰も見たこともないような」結果をちらつかせ、介入に意欲的な国々を脅した。
ロシアのテレビはそれ以降、アルマゲドンをめぐるムダ話を流して視聴者をじらしている。
たとえウクライナで核爆弾を使用しないとしても、プーチン氏はこのようにして核の秩序をすでにひっくり返した。
この脅しを受けた後、北大西洋条約機構(NATO)は準備していた支援の提供に制限を加えた。このことがもたらし得る影響は2つある。
それも、ロシアの通常兵器による軍事行動によってかき消されている分だけ、一段と懸念されるものになっている。
第1の影響は、ウクライナの目を通して世界を見ている脆弱な国々が、核兵器を持っている侵略者から自国を守る最良の手段は自ら核武装することだと感じてしまうこと。
第2の影響は、すでに核兵器を持っている国々が、プーチン氏の戦術をまねれば自分たちも得をすると考えることだ。
だとすれば、どこかの誰かが脅しを実行に移すことは間違いない。それが今回の戦争の破滅的な遺産になってはならない。
侵攻前から高まっていた核の危険
核兵器使用の危険性はウクライナ侵攻以前から高まっていた。
北朝鮮は数十発の核弾頭を所有している。国連は先日、イランが同国初の核爆弾を製造するのに十分な量の濃縮ウランを保有していると述べた。
ロシアと米国の大陸間弾道ミサイル(ICBM)の数は、新戦略兵器削減条約(新START)によって2026年まで制限されるものの、核魚雷などの兵器は条約の対象外だ。
パキスタンは核兵器の保有を急増させている。中国は核戦力の近代化を進めており、米国防総省(ペンタゴン)によれば規模も拡大している。
こうした核拡散は、核兵器の使用を抑制する道徳的な嫌悪感が弱まっていることの反映だ。