法務部長官の権限である「常設特別検事」に向けた特検チームの構成にも拍車をかけているといううわさも聞こえてくる。すでに特別検事の任命などに関する法律(特検法)で規定した特検推薦委員会の構成条件が整っただけに、韓法務部長官は人事組職再編による捜査の空白を理由に常設特検を発動させることができる。国会聴聞会で、「生きている権力に対する捜査が一番できなかったのは、文政権の3年間だ」という韓長官の発言から類推してみると、文在寅政権の妨害で捜査が遅々として進まなかった数々の事件に対する常設特検を発動する可能性がある。具体的には、大統領府の蔚山市長選挙介入事件、月城(ウォルソン)原発1号機の経済性評価の操作事件、大庄洞都市開発事件などである。
検察人事、大刷新
韓長官は任命翌日、検察指揮部の人事を断行し、文在寅政権で遅々として進まなかった捜査を再開するために組織を引き締めた。検察指揮部に布陣していた親文在寅政権性向の検事たちを大挙左遷させ、その場に「尹錫悦師団」と呼ばれる特捜部出身の検事たちを据えた。皆、曺国事件をはじめとする文在寅政権関連捜査をしたせいで閑職に左遷された人物だ。
韓長官は、文在寅政権の「検捜完剥法(検察捜査権の完全剥奪)」について「夜逃げ法案」などといった表現を使って強く非難してきただけに、法務部傘下にタスクフォースチームを置いて、検捜完剥法に対する違憲審査と権限争議審査のための法律の検討も推進するものとみられる。韓法務部長官の任命は、文在寅政権が、政権庇護を向けて推進してきた「検察改革」を完璧に覆すための布石とも言えるだろう。
今や野党となった共に民主党は、大統領選の期間中、「尹錫悦候補が大統領になれば、韓国は検察共和国になる」と何度も主張した。尹錫悦候補はこれを否認したが、第1期内閣を見ると、特捜部検事出身者が大統領府と法務部の要職にくまなく配置されている。さらに、韓東勲法務部長官には、政権の人事検証の権限まで与えている。過去のどの政権よりも検察の位置が高くなったのは確かに見える。その意味では、共に民主党の指摘はあながち的外れとは言えまい。
「尹大統領の右腕」である韓東勲長官の影響下に入った検察が、文在寅政権に向けた捜査を開始するのなら、否応なく「検察の中立性」議論が巻き起こるだろう。韓東勲法務部長官としては、前政権に対する捜査が中立的かつ公正であるという点を、韓国国民に明確に示さなければならないだろう。