これを受けて、秋長官は「検言(検察と言論)癒着事件」と命名し、韓氏に対する監察を検察に命じた。それから約1カ月後、監察の結果をもとに開かれた最高検察庁の捜査審議委員会は韓氏に対する「捜査中断および不起訴」を勧告し、チャンネルA事件を捜査した中央地検も韓氏の疑惑に対する物証を確保できなかったため「不起訴」としようとした。

 ところが秋美愛法務部長官はそれを許さなかった。あくまでも韓氏を起訴するために、捜査指揮権発動などの総力を傾けた。この過程で韓氏は後輩検事から暴行を受けるという侮辱まで経験した。

 それから1年以上、親政権の検事たちによる捜査が行われたが、最後まで韓氏を起訴できる証拠は掴めなかった。検察内部では数十回も韓氏に対する「嫌疑なし」の調査報告書が中央地検長に上げられていたのだが、決済を受けることができず、無駄な捜査が続けられてきた。韓氏に対してようやく「嫌疑なし」の結論が最終承認されたのは、尹錫悦氏が大統領選に勝利してからだった。

野党の予想を超える「大抜擢」

 尹錫悦氏が大統領に当選すると、韓氏の名前は「次期中央地検長」の下馬評に急浮上した。これに共に民主党は「絶対不可」と猛反発した。自分たちが総攻撃した人物が検察の幹部に復帰することを恐れたからだ。

 だが、尹大統領が下した決断は、野党議員の予想をはるかに上回るものだった。中央検事長どころか、法務部長官に韓氏を指名したのだ。

 文在寅政権によって弾圧を受け続けた特捜部エースが法務部長官に抜擢されたことについて、共に民主党では「驚きを禁じ得ない」「国民への人事テロだ」「露骨な政治報復宣言」という表現で、強いアレルギー反応を見せた。共に民主党は韓氏を「落馬リスト」の筆頭に挙げで、国会で開かれる人事聴聞会で、彼の疑惑を徹底的に暴くと宣言して見せた。