獲物の皮を剥く

 ミートハンターは、たとえ獲物をキレイに仕留めたとしても、その現場で腹(内臓)を出すことも首を落とすことも禁じられている。獲物を即時回収し、自治体が指定する処理施設まで「撃ってから」一時間以内に持ち込まなければならないと定められているので、確かにそんな暇はないのだが、これまでの経験からすぐに内臓を出して血抜きしないと(味が落ちるのではないかなあ?)とハラハラする。自治体が定める衛生基準との兼ね合いだろうけど、私が消費者なら肉の味ファーストでお願いしたいと思う。

 とはいえ、獲物を的確に処理できるかどうか、こればかりはハンターの腕と性格にもよるので、内臓そのままで処理施設に持ち込むという決まりは流通に載せるには仕方のないことなのだろう。

 現在はミートハンターとしての活動をしていない師匠だが、そのハンティングは、年を追うごとに進化している。肉の処理にしてもそうだ。処理施設に持ち込むのではなく、自分でさばくのだが、例えば皮を剝ぐこと一つとっても、当初はナイフで皮を剝いでオール手剝ぎだったのが、近年はある程度ナイフで剝がした後、皮にロープを結んでモーターや車で引っ張り一気に剝がすということも行っている。びっくりするぐらいあっという間に、そう、毛皮のコートを脱ぐように剝がれて、芸術的だとさえ感じてしまう。

ナイフ一本で巧みに鹿の皮を剝ぐ“師匠”(筆者撮影)
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 余談だが、中東イラクの南部の町で羊市を取材したことがある。羊を売りに来る人、買いに来る人が空き地に集まって、そこここで売り買いが行われるのである。その会場内には羊を吊るせる一角があって、逆さに吊るされた羊が、熟練のナイフさばきであっという間に、まさにムートンのコートを脱ぐように丸裸になっていくのを見た。す…すごい! 芸術だ!! とその時も思い、さらに丸裸になった羊を見て「おいしそう」と涎が垂れそうになった(中東で羊はごちそうであり、私も大好物だ)。

イラクの羊市。生活の中に屠るということが当たり前のこととして存在していた。2004年イラク南部にて筆者撮影
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 つまるところ、ある程度皮下脂肪のついた獣の肉は剝がしやすい、ということだ。キッチリ脂肪のついた個体だと、胴体と皮の間、皮側に少しナイフを沿わせてやると、ササーッと面白いように剝がれていく。ただ、猟期終わりの瘦せこけたエゾ鹿の場合、肉まで削げてしまうことがあるので、要注意なのだが。