核兵器を掲げ、NATO(北大西洋条約機構)を牽制しながら、軍事作戦的に孤立無援のウクライナに対して、子供を抱えながら退避する婦女子を情け容赦なく砲撃し、病院や学校を手加減せずに無差別爆撃する――。
国際法を躊躇せずに無視する冷酷非道のプーチンを戦争犯罪で、国際法廷で裁くべきであると思うのは筆者だけではないと思う。
戦争犯罪とは国際法に違反する行為をいう。
ジュネーブ諸条約第1追加議定書(1978年発効)では、敵対行為の影響からの文民たる住民の保護に関して、
①軍事目標主義(軍事行動は軍事目標のみを対象とする)の基本原則を確認(第48条)
②文民に対する攻撃の禁止(第51条2)、無差別攻撃の禁止(第51条4-5)などが規定されている。
さて、英独仏などがロシアによる侵攻を含むウクライナの事態を巡る捜査を国際刑事裁判所(International Criminal Court:ICC)に付託した。
日本政府は3月9日、ICCに捜査を付託した。日本外務省によると日本の付託は41カ国目である。
3月2日、ICCのカリム・カーン主任検察官は、戦争犯罪と人道に対する罪などで、ロシアのウクライナ侵攻について捜査を始めると発表した。
英国籍のカーン主任検察官は、旧ユーゴスラビア国際刑事裁判所とルワンダ国際刑事裁判所の検察局での法律顧問やイスラム国(ISIS)がイラクで犯した犯罪を調査する国連のチームを率いた経験がある。
ICCは容疑者不在の「欠席裁判」を認めないため、訴追には容疑者の逮捕と引き渡しが不可欠である。プーチンが失脚しない限り訴追される可能性はない。
しかし、ICCの検察官が「人道に対する犯罪」や「戦争犯罪」などの容疑でプーチンに逮捕状を発行すれば、プーチンがウクライナやICC加盟国の領域に入れば、彼を逮捕してICCで裁判にかけることが可能となる。
幸い、捜査協力はICC条約(ローマ規程)締約国の義務となっている。2021年6月30日現在のICC条約の締約国は123か国である。
以下、初めに国際裁判所の現状について述べ、次にICCの成り立ちと役割について述べ、次にICCが扱う犯罪に該当する行為について述べ、最後に ICCが扱う犯罪で適用される刑罰について述べる。