引き上げられたF-35Cの機体(写真:米海軍)

(北村 淳:軍事社会学者)

 今年(2022年)1月、アメリカ海軍は中国軍を牽制するため、空母打撃群2セット(カール・ビンソン空母打撃群、エイブラハム・リンカーン空母打撃群、それぞれ70機ほどの航空機を積載した航空母艦を旗艦として、巡洋艦と駆逐艦数隻、攻撃原潜から構成される)をバシー海峡(台湾とフィリピンの間の海峡)から南シナ海に送り込んだ。その時点では、アメリカ軍はウクライナ情勢よりも台湾情勢のほうを危惧していたのである。

 米海軍は南シナ海で大規模な軍事演習を実施する予定であった。ところが、1月24日、空母カール・ビンソンに着艦しようとしたF-35Cステルス戦闘機が着艦に失敗し海面に墜落して、またたく間に海中に姿を消してしまった。

 そのため対中牽制のための作戦どころではなくなり、南シナ海の海底に沈んでしまった機密の塊であるF-35の残骸を可及的速やかに回収しなければならなくなった。

 万が一にも、中国側にF-35の機体や部品を引き揚げられでもしたならば、アメリカ軍だけでなく同盟諸国にも売り込んでいるF-35の機密情報が中国側に渡ってしまいかねない。