ルポライターの安田峰俊氏が台湾で出会った、尖閣海域に突入する漁民たち。彼らは一体どんな人々か。日本の漁業就業者とどう違うのか?
日本の「国境の産業」である漁業が危機的状況に置かれている。就業者数、水揚げ量は縮小の一途をたどり、東シナ海では中国と台湾の勢力拡大の前に今や駆逐される寸前だ。
『東シナ海 漁民たちの国境紛争』(角川新書)の著者で漁業経済学者の佐々木貴文・北海道大大学院准教授は、「日本の漁業は荒療治をしない限りは救われない」と警鐘を鳴らす。安田氏が佐々木氏に、東シナ海で瀬戸際に立つ日本漁業のリアルな現状を聞いた。(JBpress)
日本漁業の「体力の弱さ」
安田 本書『東シナ海 漁民たちの国境紛争』は東シナ海をキーワードに、日本の漁業が抱える構造的問題をも浮き彫りにしています。書中の記述によると、日本国内の漁業就業者は15万人。しかし、私たち日本人が魚介類を一切口にしない日は、カツオ出汁なんかまで含めて考えれば、ほぼないでしょう。漁業就業者の人数は、非常に少ないように感じます。
佐々木 しかも、この「15万人」は、遠洋漁業や沖合漁業、沿岸漁業、養殖まで、すべて含めての人数です。さらに、これは漁業センサスで把握された数字ですので、「過去1年間に海上作業に30日以上従事した者」ということになる。いま、漁業従事者の65歳以上の割合は4割に達していますから、年金をもらって月数日だけ磯や沖に出ているようなおじいちゃん、おばあちゃんも含めての数字なんです。
安田 他の産業であれば引退していてもおかしくない方まで含めて「15万人」。より厳しい数字です。
佐々木 おじいちゃん、おばあちゃんも頑張ってくれていますが、今後もながく漁業生産に従事していく方のボリューム感は、公表される数字のイメージよりもずっと少ないのです。そこで危機感を持たなくては・・・と言いたいのですが、漁業は新しい人が就業しようとするには制度があまりに旧式です。例えば年金制度が農業と比べても脆弱で、国民年金しかない漁師さんもいらっしゃいます。自営であれば、死ぬまで魚を獲り続けましょうということです。
安田 ときには生命の危機もある仕事なのに、不安定なのですね。