韓国における一般的なキムチ製造工場の風景。食品工場では高い衛生管理が求められるが・・・(写真:YONHAP NEWS/アフロ)

(羽田 真代:在韓ビジネスライター)

 韓国の有名な料理研究家で、キムチ製造業者、漢城(ハンソン)食品代表取締役の金洵資(キム・スンジャ)氏が、韓国政府の雇用労働部に食品名人の指定取り消しを申し出るという「事件」があった。漢城食品の子会社が運営するキムチ工場で、変色した白菜とカビが生えた大根を下処理する非衛生的な様子が、韓国のテレビ局MBCに暴露されたからだ。

 問題が公になると、即座に漢城食品はこの工場を閉鎖して謝罪文を公表、問題の幕引きを図った。ただ、一部の韓国人から金氏の名人資格を剥奪すべきだという声が上がり、自ら食品名人指定の取り消しを申し出た。食品名人指定とは、優秀な韓国食品の継承や発展のため加工、調理分野などの職人を大韓民国の食品名人と指定する認証制度のことだ。

 彼女は、2007年に韓国の食品名人29号とキムチ名人1号に指定された、いわば韓国を代表する料理研究家である。料理番組などにもしばしば登場する有名人だったこともあり、国民からの批判の声がいまだ鳴り止まない。

 MBCが放送した映像は、2021年10月から今年1月まで数回に分けて撮影されたものだ。映像内には、従業員の「汚い」「私は食べない」「ゴミばかりだ」という肉声まで収められていた。

 筆者もこの映像を見たが、写された白菜はむいてもむいても葉が黒くなって萎れていたし、大根は中心部まで黒かった。食材以外にも、カットした大根を保管するカゴや、冷蔵庫に保管している小麦粉、キムチを包装する前に通す金属探知機には黒いカビが生えており、完成品を保管する箱には黄色い幼虫の卵までくっついていた。

 食品を扱う工場であるにもかかわらず、清掃を怠っていたのだろう。これほどまでに不衛生な工場映像は、久しく見たことがない。

 加えて、この工場の自主検収報告書には、「白菜切断時は10株中8株が腐っている」「大根も個体の大部分が腐っており、白いカビも確認できる」と明記されていたことも明らかとなっている。食材の鮮度の悪さは、工場管理者も周知であったようだ。