議会との関係も大きな懸念材料だ。300議席の国会議席のうち、現在172議席を共に民主党が占めている。国会の協力を得ることも容易ではないだろう。まず組閣人事から共に民主党に足を引っ張られる可能性が高い。韓国では、長官は大統領が任命を押し付けることはできるが、首相だけは国会承認が必須だ。共に民主党の同意がなければ、首相すら自由に任命できない。共に民主党はすでに選挙期間中から「尹錫悦候補がもし大統領になっても結局は何もできない『植物大統領』になる」と脅してきた。大統領選挙の前から「弾劾」の可能性を口にしていた議員もいたほどだ。

 結局、尹錫悦次期大統領は、24年の総選挙まではできるだけ共に民主党を刺激せず、なだめながら協力を引き出すことが重要になるだろう。となれば、選挙期間中に強調してきた文在寅政権に対する積弊清算捜査や李在明候補の各種疑惑に対する捜査もすぐには始めることができまい。

文在寅大統領に捜査が及ぶ可能性のある2つの事案

 現在、文在寅大統領の関与が疑われる事案としては、月城(ウォルソン)原発経済評価捏造事件と蔚山(ウルサン)市長選挙介入事件の2つがある。投票日直後の時点でも、尹錫悦政権が誕生すれば、この2つの事件に対する再調査が行われるという見方が強かった。

3月4日、金正淑夫人とともに期日前投票を行った文在寅大統領(写真:AP/アフロ)

 月城原発経済性操作事件は文在寅政権の「脱原発政策」のために、公務員が月城原発の経済性評価を操作することで月城原発を早期閉鎖しようとした事件である。

 2018年6月、韓水原(韓国水力原子力)は月城1号機原発に対する早期閉鎖を決定したが、野党を中心にこの決定に手続き上の問題がないかに対する監査を要請した。監査院は約2年後の2020年10月、2年間の監査結果を発表した。そこには、文在寅政権の指示で、産業通商資源部の公務員が月城原発閉鎖の結論に導くために経済性評価を操作し、さらに関連資料を廃棄するなどして監査に抵抗していた、と記されていた。