本好きの方ならきっと共感してもらえるのではないだろうか。好きな作家の作品、お気に入りの雑誌や映画パンフレットなど愛すべき紙媒体は、その愛ゆえに、ちょっと油断すると増殖し、生活空間を遠慮なく圧迫してくる悩ましき存在だ。
電子書籍になっていれば置き換え、もう読まないのなら断捨離してフリマサイトに出品したり、古書店に持ち込もうと考えたりする方もおられるだろう。
しかし、愛した本たちは二束三文にしかならず、せめて好きになってくれる人の手に渡れば・・・と思わずにいられない。
「この世界のどこかに、その本を買う人は必ずいる」と話すのは、仏文学者の鹿島茂氏だ。自身も古書蒐集家である鹿島氏は、世界有数の古書店街・東京の神田神保町に共同型(シェア型)書店〈PASSAGE by ALL REVIEWS〉をプロデュースし、2022年3月1日にオープンした。紙の本を愛しつつ、その増殖にやや困りはじめた筆者はさっそくこのユニークな古書店を取材した。
「自分だけの本屋」を棚で実現する
共同書店とは本棚のひと棚を貸し出して“棚主”が売りたい本を並べて運営するスタイルのシェア型店舗である。棚主は新刊、古書、自費出版など売りたい紙媒体なら何でも並べることができて価格も自由に付けることができる。棚は約350スペースあり、月額5500円から借りることができる(入会金1万3200円が必要)。
神保町のすずらん通りに面した店舗は、けっしてひろくはないその入口からは想像できない奥行きを持つ。そして、店内は本に埋め尽くされているのか・・・と思いきや、両側と奥に天井まで届く書架が並ぶ以外は、中央に机があるだけのすっきりとした空間。天井には1930年代アンティークのシャンデリアが優雅にきらめいている。
店内の書架には、ラシーヌ通り、アナトール・フランス河岸、ヴィクトル・ユゴー大通りといったパリに実在の通りの名が付けられ、棚には番地が付いている。