「エルピーダのDRAMは世界一高価」と三菱電機出身者

 2004年1月21日の1回目の調査では、NEC出身者6人、日立出身者6人、合計12人について、1人1時間のインタビューを行った。その中で、NEC出身者と日立出身者の中に少数混じっている三菱電機出身の社員が非常に効果的な働きをしていることがうかがえた。

 そこで、5月11日の2回目の調査では、三菱電機出身者6人について、1人1時間のインタビューを行った。その頃、エルピーダは台湾のファンドリーを利用して、DRAMの生産量を増大しようとしていた。したがって、三菱電機出身者は、エルピーダの技術、ファンドリーの技術、そして三菱電機の技術、これら3種類の技術を比較できることになる。その比較を行ってもらったところ次のような結果となった(図2)。

図2 三菱電機からエルピーダに出向した社員へのインタビュー
(2004年5月11日、湯之上の調査による)

 要素技術については、エルピーダが最も優れている。特に微細加工技術については、エルピーダの技術は圧倒的に優れている。また、要素技術を統合してプロセスフローを構築するインテグレーション技術についても、高性能・高品質なDRAMを作る技術はエルピーダが優れている。

 一方、効率良く、低コストでDRAMを作る技術は三菱電機の方が優れている。エルピーダはマスク枚数も工程数も多く、“こてこて”である。そして、量産技術については、ファンドリーが最も優れている。次が三菱電機であり、エルピーダは最悪である。スループットが悪いため、装置台数もやたらに多く、三菱電機の倍くらいあるのではないかという。さらに、テスト工程が多過ぎる。エルピーダは三菱電機の10倍くらいテストを行っているという。PC用のDRAMであることを考えると、このテスト工程の多さは気が狂っているという回答があった。

 三菱電機出身者の回答をまとめると、「エルピーダのDRAMは世界一高性能かつ世界一信頼性が高いかもしれないが、世界一高価である」ということになった。つまり、一言でいうと、PC用のDRAMとしては、「過剰技術で過剰品質をつくっている」ことが明らかになった。

 筆者は、この調査結果に危機感を覚えた。PC用のDRAMを低コストで大量生産しなければならないのに、エルピーダの技術は、一昔前のメインフレーム用DRAMをつくる技術そのままなのである。これでは、原価が嵩み利益は出ない。

 この調査結果を、坂本社長をはじめとするエルピーダの幹部に直接報告した。ところが、坂本社長はこの結果に興味を示さなかった。それどころか、広報担当の常務に「あいつは何者だ? エルピーダの欠点ばかり指摘するではないか」と睨まれ、研究中止を言い渡され、エルピーダへの出入りを禁止されることになってしまった。

エルピーダからサムスン電子へ転職したX氏へのインタビュー

 筆者は、このインタビューを2004年9月22日に行った。その当時、DRAMの集積度は512メガビットであり、エルピーダの歩留りが98%、サムスン電子の歩留りが83%と報じられていた。そこで、この点について、エルピーダとサムスン電子の両方の技術を比較できるX氏に聞き取り調査を行った。その結果は次の通りである(図3)。

図3 エルピーダからサムスンへ転職したX氏へのインタビュー
(2004年9月22日の湯之上の調査による)

 世間のアナリストや学者たちは、歩留りの数字だけを見て、サムスン電子よりエルピーダの方が技術力が高いと評価していた。しかしX氏は、「そのような評価は全く意味がない」と述べた。そして、その理由を次のように説明した。