小田 では、他にも住民サービスに寄与するような構想がおありなんですね。

水谷町長 「ネタ」段階のものも含めて、たくさんありますね。

小田 きっと水谷町長だけでなく、職員の皆さんの中にも「ネタ」がたくさんあると思います。ちなみに、そのような構想を実現するためにどんな行動をされているのですか?

水谷町長 いろいろと研修を開催したり、視察に行ったりしています。構想段階で規模が大きくなりそうなものについては、法律や各種制度の範囲内で実現可能かどうか、実現するにはどんな方法があるかなどを国に確認しに行きます。気になった民間企業とは接点を持つために直接、連絡することもありますね。

小田 あらゆる手段を使い、構想の実現性を高めていらっしゃるのですね。

 ちなみに、民間企業と接点を持つための方法の一つとして、マッチングプラットフォームのようなものがあります。自治体がかなえたいことを登録しておくと、それを見て連携したいと思った企業がプラットフォームを通じてコンタクトするような仕組みなのですが、東員町はそのようなものを利用していますか?

水谷町長 マッチングプラットフォームは使ったことがないです。そういう仕組みで企業との接点を広げられるのであれば、活用の余地はありますね。ただし自治体も民間企業も、お互いにある程度の構想は持っているでしょうから、本当にマッチするには最終的に膝を突き合わせて話す機会が必要だと思います。

小田 そうですね。プラットフォーム上だけのやりとりですと情報が限定されるので、お互いの「本当はこうしたい」という形が見えない可能性がありますね。私も自治体と企業がしっかりと話し合い、ウィンウィンの設計と共有ができた時点で初めて、マッチングが成功したと言えると思います。

水谷町長 そういう意味では、こちらの構想をダイレクトに伝えて企業の反応を見る「直接交渉」は、アナログではありますが、深い話に進みやすいと思います。

小田 ありがとうございます。今回のインタビューでは、2021年6〜7月に東員町で行われたスマート脳ドックの実証実験をテーマにしながらも、端々で水谷町長の官民連携に対するお考えをうかがい知ることができました。

*    *    *

 水谷町長は「関係施設に自ら連絡し、調整した」「実証実験を行う場所は職員が指定してくれた」と、さらりとおっしゃいましたが、誰が何を担えば事がスムーズに進むのか、民間企業のカウンターパート(交渉相手)は誰が務めるのかといった点などが、暗黙の了解として庁内に根付いていなければ、ここまで円滑な官民連携はかなわないと思います。

 これはひとえに、水谷町長が就任当初から官民連携によるまちづくりをイメージし、地道に職員の方々に自らの行動で範を示してきたからではないでしょうか。

 後編では、スマート脳ドックの他に現在進められている官民連携の事例や、水谷町長が職員の方に示すマインドセットについて詳しく伺います。
積極的に民間企業と接触するのは「町の存続」のため
https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/68841

水谷俊郎(みずたに・としお) 三重県東員町長。1951年生まれ。東京工業大工学部を卒業後、三重県庁、大成建設株式会社での勤務を経て、91年4月に三重県議会議員に初当選。3期の間に県監査委員、県議会行政改革調査特別委員長、同PFI研究会座長などを歴任。2011年4月に東員町長に就任し、現在に至る。