・大学のある政府管理地域と東部の被占領地にある実家の間を行き来し、家族との会話やSNSではロシア語を使うことが多いが、仕事では自由にウクライナ語を使う者

・ドネツィクに生まれたが、2014年以前から日常生活はロシア語、SNSではウクライナ語のみを使う者

・クリミアとウクライナ本土を行き来し、日常活動のほぼ全ての場面でロシア語のみを用いるが、ロシア政権のことは密かに嫌悪している者(ただしリスク回避のため、意見を公言することはない)

・クリミアの人気ブロガーで、普段はロシア語を使うが、対談相手によってはウクライナ語での動画投稿も行う者

 ウクライナはこのような多様な人々で溢れており、その多様さこそが現在のウクライナの現実である。ある映画監督が「ウクライナで映画を作る時には、ロシア語だけ、ウクライナ語だけで撮影することはまず不可能だ」と述べていたが、それだけウクライナでは2つの言語が1つの町、1つの通り、1人の人の中で混在しているということである。そこに1本の明確な境界線を引くことが不可能であることは言うまでもない。

日本は偽情報を払い除け、毅然とした決定を

 さて、佐藤氏は前述の記事にて、ロシアが現在、今にもウクライナに対して更なる侵攻に踏み切ろうとしている状況に対して、「日本は安易にどちらかに肩入れすることなく、中立を保つことが重要」だと主張している。

 しかし、プーチン大統領が行おうとしているのは、一国が別の主権国家に対して軍隊を送るという、れっきとした侵略行為である。紛争地で簡易的に作り出した「ロシア国民」の保護という口実をもって、正当化を試みているに過ぎない。そうした明白な侵略行為に関して、日本が、厳しい対露制裁を準備する欧米とは異なる、「中立」という「独自対応」を取った場合、今後、台湾海峡や尖閣諸島にて類似の力による現状変更が生じた時に、日本の主張が欧米から理解を得ることは極めて困難となる

 日本政府は、たとえ日本から遠く離れた出来事であっても、ロシアによる偽情報を根拠とした侵略正当化の試みを適切に払い除けつつ、実際の状況を正しく把握した上で、G7、国際社会の一員として、「力による現状の変更は断固として受け入れない」という原則を示す、毅然とした決定を採択することが極めて肝要であろう。

◎平野 高志(ひらの・たかし)
ウクルインフォルム通信(ウクライナ)編集者
東京外国語大学ロシア・東欧課程卒。2013年、リヴィウ国立大学(ウクライナ)修士課程修了(国際関係学)。2014~18年、在ウクライナ日本国大使館専門調査員。2018年より現職。著書に『ウクライナ・ファンブック』(パブリブ)がある。