中国建国70周年の軍事パレードで初めて登場した「DF-17」(2019年10月1日、写真:AP/アフロ)

 英国のタブロイド紙デイリー・エクスプレス(Daily Express)は1月23日、情報筋の話として、中国人ロケット科学者が米国に亡命したために、中国当局に衝撃が走っていると報道した。

 この亡命者は大物の科学者で、映画「007」で有名な英国の秘密情報部(MI6)が亡命の手助けをしたと報道されている。

 周知のとおり、MI6は英国の対外諜報機関で、国外の政治・経済などの秘密情報の収集・情報工作を任務としている。

 亡命した中国人は、有名な国営企業である中国航空工業集団(AVIC)に所属し、中国が誇る極超音速滑空兵器(HGV)である「DF-ZF」(「東風ZF」、NATOコードネームでは「WU-14」と呼ばれている、図1の写真でDF-17と書かれた部分)の開発に重要な役割を果たした科学者だった。

 DF-ZFは、弾頭として中距離弾道ミサイル「DF-17」に搭載され、マッハ5以上の高速で飛翔し、射程約1000~1500マイル(1600~2400キロ)の目標を攻撃する極超音速兵器になる。

 以下、DF-ZFを搭載したDF-17をDF-17極超音速滑空ミサイルと呼ぶ。

図1 2019年の国慶節のパレードで登場した「DF-17」

出典「China Aviation Photography」

 極超音速滑空ミサイルについては、米中露などの主要国の間で熾烈な開発競争が行われているが、特に中国のDF-17極超音速滑空ミサイルの実験は頻繁に行われ、部隊配備されているとも言われていて、米国の専門家の間でも評価が高い。

 その情報は、中国にとって極秘中の極秘であり、他国への流出などあってはならないことだ。

 さらに亡命した科学者は、DF-ZFのみならず人工衛星の軌道を利用して米国を攻撃する極超音速ミサイル運搬システム「部分軌道爆撃システム(FOBS:Fractional Orbital Bombardment System)」の開発にも関係したという。

 つまり、亡命者を確保した米国は、中国の極超音速滑空兵器のみならず、FOBSに関する中国の極秘情報も入手することになる。

 これは中国と技術覇権争いを展開する米国にとっての画期的成果になる可能性がある。

 今回の亡命事件は日本の安全保障にも影響を与えることなので、簡単にまとめてみた。