所属していた帝京大学の監督から「プロ野球は夢でもなければ憧れの世界でもない。ただの仕事だ。試合に出てなんぼだし、出なければ稼ぐこともできない」と助言を受けた里崎氏は、次のようにロッテを逆指名した背景を記している。
“僕にとって、それはすなわち「弱いチーム」でした。大学四年の一九九八年、十二球団で最も弱い球団はおそらくロッテでした。(中略)「ロッテ=弱い。だから、早く試合に出られる」。これが、決め手でした”
プロ5年目で主力選手となるが、そこに至るまでは「技術がないなら身に付けるために練習するのは当たり前」と、道程もシンプルに考えてきたと述べている。結果、7年目には「一流選手の証」とも言われる年俸1億円に到達。16年間で13億円を稼ぐまでの選手となり、現在では「慎ましく暮らしていけば、働かなくてもいいくらいの貯えがある」と明かす。
稼ぎが見込めると判断して弱小球団に入団し、自身が主力となるにとどまらずチーム2度の日本一を支えるなど成功を収めた。
そんな里崎氏ではあるが、引退した今、プロ野球OBならば誰もが狙う指導者の椅子にはまったく興味がないという。その理由を、
“給料が安いから”
と、一蹴し、根拠をこう綴った。
“プロ野球の指導者は、監督こそ実績や期待値を考慮され一億円を超える報酬を手にする人もいますが、コーチの相場はヘッドコーチで千五百万円から二千万円。他は八百万円から千五百万円です。当然、所得税を支払うため、手元に残る額はこれよりも少なくなります。一千万円以上の収入がある人は「高額所得者」と区分されるようなので、日本においては十分な稼ぎなのかもしれません。
考えてみてください。プロ野球の世界は指導者も個人事業主。会社員のようにこの金額が何年も保証されるのであれば安泰でしょうが、結果を残せなければ一年でクビを切られることだって珍しいことではありません。
(中略)指導者としてレギュラークラスの選手を何人育成しようとも、選手時代のように年俸が飛躍的にアップすることはない。これまで野球しか経験してこなかったため、「なれるならなりたい」と考える人が多い。でも、額はほぼ決まっている。この構図は変わっていません。成功報酬など待遇が明確化されているのであれば、僕も少しは「やってみたいな」と思うかもしれませんが、改善傾向がまったく見られないので面白みを感じられないんです”
里崎氏にとってプロ野球の指導者とはハイリスクローリターンでしかない。ならば、自分が楽しめる今の仕事で収入を増やしていったほうが豊かな生活を持続できる。これも、氏にとってのシンプル思考なのである。