北朝鮮で珍重されているキツネ(写真:Solent News/アフロ)

 ヤヌスはローマ神話の門扉の守護神で、一つの体で頭が二つある。このヤヌスと、北朝鮮の政治構造はよく似ている。北朝鮮では、すべての国家機関に朝鮮労働党の責任者と行政実務責任者が存在する。胴体は一つだが、支配する頭が二つある格好だ。

 政権を維持するため、牽制と監視の目的で作られた北朝鮮のヤヌス的な二重政治構造がどれほど不便か。そんな「ヤヌスの国」北朝鮮で事件が起きたことがある。

(過去分は以下をご覧ください)
◎「北朝鮮25時」 (https://jbpress.ismedia.jp/search?fulltext=%E9%83%AD+%E6%96%87%E5%AE%8C%EF%BC%9A)

(郭 文完:大韓フィルム映画製作社代表)

 ドミトリー・ティモフェヴィッチ・ヤゾフ氏は、1924年11月8日にシベリアで生まれ、2020年2月25日に亡くなった、旧ソ連の元国防相である。

 ヤゾフ元国防相は、北朝鮮の金正日国防委員長(総書記)と親交が深かった。

 1987年から1991年まで旧ソ連の国防相を務めたヤゾフ氏は、在職中、金正日委員長に対する限りない信頼と支持を表明した。金正日委員長も、ヤゾフ氏がゴルバチョフ元書記長の進める改革開放路線に反対する1991年8月のクーデターに荷担して逮捕されると、ソ連政府に早期赦免を非公式に要求した。また、1998年にヤゾフ氏がロシア国防省国際軍事協力総局の主任軍事顧問になると、彼と家族を北朝鮮に招待し、休養のための宿所を提供した。

 それ以降、ヤゾフ氏は毎年、家族とともに北朝鮮を訪問した。ヤゾフ氏が訪朝すると、金正日国防委員長はヤゾフと家族の宿所を訪ね、毎回食事をともにした。自分を積極的に支持してくれたヤゾフ氏に、それほどまでに感謝していたのだ。

サッチャー英元首相と並ぶドミトリー・ヤゾフ氏。金正日国防委員長(総書記)との深い親交で知られた(写真:AP/アフロ)

 ある時、平壌を訪れたヤゾフ氏との晩餐会で、金正日国防委員長に同行した北朝鮮軍のチェ・グァン総参謀長が、酔った勢いでヤゾフ氏に次のように質問した。「旧ソ連は強力な軍事力を持っていたのに、どうして一発も弾を撃つことなく社会主義をあきらめたのでしょう」。