「コロナが最初に上陸した直後、トランプ氏は中国はじめ中東諸国との渡航禁止令を出した。その時、特定の国に対する差別的行為だ、と批判したのはどこの誰だ。バイデン氏ではないか」

 皮肉なことにコロナ感染を防ぐためにワクチン接種を義務化しようとするバイデン政権に真っ向から反対する共和党支配州の感染者数が人口比で多いという現状。

 にもかかわらず、これらの州知事や州民はマスク着用やワクチン接種には「個人の自由を束縛する」という理由で反発している。義務化反対のデモや抗議集会が続いている。

 連邦政府といえども州の権限を侵すことはできないという建国以来の「伝統」は戦争でもやっていない限り、無視できないのだ。

「公衆の安全」よりも「個人の理由」を優先する米国の「流儀」は日本人にはなかなか理解できない。

 かつて東京特派員で、日本社会の「本音と建前」についても精通している米大手紙のベテラン記者H氏は、こう説明する。

「日本では政府による『上から目線』の命令は受け入れられない。戦前、戦中の軍国主義が国民を戦争に引きずり込み、みじめな結果を招いた『敗戦シンドローム』のなせる業だろう」

「だが、建前はそうだが、政府から『自粛』を要請されればよほどのことがない限り日本人は従う」

「日本人の社会学者は、私に『上(おかみ)の言うことに日本人が従う封建時代からの習性が今も生きているためだ』と言っていた」

「米国は封建制度を経験していない国だ。宗教でも言論でも個人の自由・権利でも、政府は侵してはならないというゴールデンルールがある」

「バイデン政権は、コロナ感染を防ぐために米国民にマスク着用やワクチン接種を義務付けようとしているが、これを『Mandate(指図)』という」

「逆の言い方をすると、選挙民がバイデン政権にそうした強制的な措置をとる権限を与えることを意味している」

「それについて共和党の一部知事や州議会や地方自治体がノーと言っているわけだ」

「それについて、連邦政府は『葵の御紋』を見せて、『これが目に入らぬか』と言っても通用しない」

「そのへんがまさにジェファーソニアン・デモクラシー(トーマス・ジェファーソン第3代大統領が提唱したアメリカ合衆国的民主主義)だ。州権と国権は同格だというわけだ」