欧州が掲げる人道主義の限界

 国境管理は主権国家として当然の権利である。しかし、人道主義を掲げて人権外交を展開するEUの場合、加盟国によるいたずらな国境管理を放置することは自らのスタンスと大いに矛盾する。そうした矛盾を、今回はベラルーシが突いてきた。経済的な利害があるロシアやトルコの場合、まだ妥協の余地がある。しかし、ベラルーシの場合はどうだろうか。

 窮鼠猫を嚙むではないが、追い込まれたベラルーシの場合、容易には妥協に応じないだろう。妥協に応じても、再び不法移民を送り込んでくるリスクは残る。そうした危機感があるからこそ、リトアニアは鉄条網が付いたフェンスを整備し、ポーランドは国境沿いに壁を建設することにこだわっている。この流れに歯止めはかからないだろう。

 EUのリーダーの一人であるフランスのマクロン大統領は、2022年4月の大統領選を目前に控えている。まだ出馬を表明していないものの、再選を目指していることは確実な情勢だ。そのマクロン大統領はフランス国内の世論を重視し、不法移民や難民に対して厳しい態度を一貫してきたが、米軍のアフガン撤退後はその立場をなおさら強めている。

 EUの中でも移民や難民に寛容であったスウェーデンでさえ、国境管理の強化にスタンスを転じている。11月に退任するロベーン首相の後継であるアンデション財務相もまた、2022年9月の総選挙を迎えるに当たり、国境管理の厳格化を訴えるものと考えられる。国レベルでの不法移民対策の強化の流れは最早止められないと言っていいだろう。