(土田 陽介:三菱UFJリサーチ&コンサルティング・副主任研究員)
先の総選挙の結果を受けて、ドイツでは第1党に躍進した社会民主党(SPD)が第3党の同盟90/緑の党(B90/Gr)、第4党の自由民主党(FDP)との間で組閣協議を本格化させている。暫定政権を率いるメルケル首相は、自身の出身母体であるキリスト教民主同盟・同社会同盟による保守連合(Union)の斜陽をどう思っているのだろうか。
そのメルケル首相は10月13日、ドイツを代表する経済団体であるドイツ産業連盟(BDI)が開催した分科会であるアジア太平洋委員会(APA)の席上で、ドイツの主要企業に対して対中ビジネスに対する依存度を引き下げるように呼び掛けた。中国以外のアジア太平洋諸国とのビジネスをドイツはもっと強化すべきというわけだ。
メルケル首相はまた貿易多角化の観点から、欧州連合(EU)の執行部である欧州委員会に対して、オーストラリアやニュージーランドとの自由貿易協定(FTA)交渉を早期にまとめるよう提言している。他方、欧州議会で批准手続きがストップしているEUと中国の間の包括投資協定(CAI)に関しては、賛成の立場を堅持している。
同日、メルケル首相は中国の習近平国家主席と最後のビデオ会談に臨んだ。次回のG20(次回の主要20カ国・地域首脳会議)に関する話題を中心に、気候変動や新型コロナ、CAIなどについて話し合った模様だ。中国の国営放送CGTNは、習近平国家主席がメルケル首相のことを「いつも中国人の友であった」と称えたと伝えている。
2005年に就任したメルケル首相の下で、ドイツ経済と中国経済の結びつきは急速に深まった。例えば、ドイツの輸出総額に占める中国向け輸出の割合は、2005年から2020年の15年間で3%弱から8%弱へと上昇した(次ページ図参照)。この間、中国は世界二位の経済大国に上り詰めたが、その成長の果実をドイツ経済も享受したわけである。