会見後のラガルドECB総裁(Photo: Andrej Hanzekovic / ECB)

(土田 陽介:三菱UFJリサーチ&コンサルティング・副主任研究員)

「インフレーション、インフレーション、インフレーションについて議論した」という言葉は、欧州中央銀行(ECB)が10月28日に開いた政策理事会後の記者会見で、クリスティーヌ・ラガルド総裁が開口一番に発したものだ。インフレの加速に対するECBと、そして金融市場の関心の強さを良く示している。

 このところのインフレの加速を受けて、金融市場ではECBが来年にも利上げを実施するのではないかという観測が高まっていた。理事会後の記者会見でも同様の質問が出たが、ラガルド総裁はそうした早期の利上げ論を明確に否定するとともに、足元のインフレ加速はあくまで一時的な現象であるという見解を強調した。

 今年7月以降、ユーロ圏の消費者物価は2%を超える上昇が続いている。先行指標である生産者物価も伸びが加速しているため、今後もインフレは加速する見込みだ。とはいえ、ECBは7月8日に発表した『戦略レビュー』で、それまで中長期的に2%かそれを下回ると定めていた物価目標を、一時的に2%を超えても構わないと修正している。

 ラガルド総裁が言うようにインフレの加速が一過性であり、来年にも落ち着くとするならば、景気のオーバーキルにつながりかねない利上げの回避は物価目標に従い正当化される。一方で、金融市場はインフレの加速が落ち着いたとしても、供給不足が常態化する中で2%を超えるインフレが定着する可能性を意識している。