トランプ大統領の「国境の壁」を踏襲する欧州
実際に、不法移民に対応しなければならない南欧・東欧の国々は10月7日、欧州委員会のマルガリティス・シナス副委員長宛の書簡で壁の建設を支援するよう求めた。
欧州には2015年から16年にかけて、かつてない規模で移民や難民が押し寄せた。いわゆる欧州難民危機であるが、その時の苦い記憶がEU各国の硬直的な態度につながっている。人権団体は人道主義に反するとして厳しい国境管理を求める国々を批判するが、当時の社会的な混乱の再来を警戒する各国の姿勢はある意味で当然と言える。
しかしながら、欧州委員会のフォンデアライエン委員長は10月21日から22日まで開催された欧州理事会の場で、壁の建設に対する支援を行う用意がないことを明言した。人道主義を掲げるEUとして、それに反する壁の建設を支援することなどできないというわけだ。とはいえ、EU本部内でも難民危機の再来を警戒する声は高まっている。
不法移民や難民を簡単に受け入れるわけにはいかないことは、加盟国とEUとの間でコンセンサスとなっている。問題はその手段であり、妙案が浮かばないからこそ物理的な障壁を設けるしかないという話が出てくる。EUはメキシコとの間に壁を設けようと躍起になった米国のトランプ前大統領を批判したが、結局は同じ穴のむじなになった形である。
EUではEU内での国境管理は撤廃されているが、EU外との国境管理は各国の裁量に委ねられている。そのため、EUの行政権でポーランドがベラルーシとの間で物理的な壁を建設することを止めることはできない。南欧のギリシャもトルコとの国境沿いに40キロにわたる鉄の壁を完成させており、ポーランドだけを制止するわけにもいかない。
もちろん、一義的に責められるべきはベラルーシである。国家ぐるみで不法移民のブローカーの役割を担うばかりか、渡航に当たって多額の手数料を徴収しており、それらはルカシェンコ首相やその側近のポケットマネーとなっているとも言われる。藁にも縋る思いでなけなしの財産をはたき、EUに渡ることを夢見た不法移民は少なくないようだ。